昼_5
――あれはちょうど二年前の夏。わたしたちは今のフランちゃんと同い年だった。
その日あの子は、広場に友達連中を集め、暇だから森を探検しようと言い出したのさ。
ほら、フランちゃんのはたらいているおうちの裏手に、ずっと黒い森が広がっているじゃないさ。あの森には魔物が住むから、大人さえめったに近づかない。足を踏み入れるのは魔法使いみたいな力のある人達くらい。
わたしたちはあぶないから行きたくないって反対した。そしたら、あの子は怒って行ってしまった。
てっきり家に帰ったと思ってたんだけど、夕方になってもまだ帰っていなかった。
大人たちが森の入り口を捜したけど、枝に引っかかって破けた服の切れ端しか見つかんなかった。
なんべん捜しても見つかんなくて、そのうち捜索は打ち切られたのだと聞いたのさ――
「これがおとぎ話なら、きっとあの子は大冒険の末に家に帰って来る。だけど、これはおとぎ話じゃないから帰って来ない。あの子はきっと森の魔物に喰われちまったのさ。わたしが、わたしがもっとちゃんと止めてればこんなことにならなかったのに!」
木々の影がロジーの顔に覆い被さりました。
フランからは隠れた表情を読むことはできません。
影は続けます。
「フランちゃんは見てて危なっかしいからさ。あの子を思い出して、ついおせっかい焼きたくなるのさ」
「そういうの、おっきなお世話っていうのよ」
――ひたり。
フランはまっすぐに影を覗き込みました。
「あたしに友だちの代わりをさせたいの?そんなのただの自己満足だよね」
一呼吸置き、フランははっきりと言い放ちました。
「めいわくなんだけど」
「あはっ、あははっ」
木漏れ日の作るまだら模様の顔で、ロジーはケラケラと笑い出しました。
「そうさね。知ってる。でもたとえ自己中だとしてもさ、わたしは後悔を繰り返したくはないのさ」
「うっわ。じかくしてるのってタチわるぅ」
ロジーは木陰から踏み出し、
「わたしの話はこれでオシマイなのさ。さぁ戻ろう戻ろう」
さっきよりもきびきびとした足取りで歩き出しました。
「…」
フランは何か考えごとをするかのように腕を組みながら、ロジーと並んでラザとヘリオスの元へ戻りました。
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