小説 | ナノ

昼_4 


 円形の広場を横切って、ロジーはきびきび歩きます。ロリポップキャンディの棒をくわえたまま、フランも無言でそれに倣います。
 ヘリオス達がいる位置の丁度反対側、広場の隅っこには時計塔がありました。塔とはいってもそれほど高い建造物ではなく、せいぜい教会よりも高い程度です。1日の朝昼夕だけ鐘を鳴らすその石造りの塔の周りはひっそりとしていて、まさに内緒話に最適といえましょう。
 ロジーもそう思ったのか立ち止まり、くるりと反転し向き直ります。その顔は夏の木漏れ日でまだらに染まっていました。
 遠くで小鳥のさえずりが聞こえました。

「…だいたい、はなしってなんなのよ」

「ん、いや別にさ、たいしたことじゃないのさ」

 ロジーはそう言って、ちょっと口をつぐみました。彼女らしからぬ仕草です。

「そうそう、フランちゃんて髪下ろすとふんいき変わるさね?その服装も似合っててかわいいのさー」

 フランは一瞬遅れて、自身がいつもの黒ワンピースにツインテール姿ではないことに気付きました。なんだか猛烈に気恥ずかしいような、照れくさいような、この場から逃げ出したいような衝動に襲われますが辛うじて踏みとどまります。体勢を立て直すために心の棘を逆立て、強いて澄まし顔で言い放ちました。

「あたしはいつだってかわいいもん」

「うわっ、言うねぇ」

「そんなとーぜんのことはいいのよ。とっととほんだいに入りなさいよ」

 まどろっこしいことが苦手なのはロジーも同じだったらしく、表情を改めて向き直りました。

「あのさ。フランちゃんて、いなくなったりしないよね?」

 ――きょとん。

 フランはロジーの顔を見返しました。ロジーの真剣な表情から、冗談ではないことだけはわかります。しかしフランは呆れずにはいられません。

「あたしたちはこの町に来たばっかなのに、なに言ってんの?」

 それには答えず、ロジーは淡々と語り始めました。

「昔さ、フランちゃんに似てる子がいたのさ。友達だった。だけどあの子はいなくなってしまった。…森に喰われたのさ」

 ざあざあと風が鳴りました。


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