小説 | ナノ
漆
ふと雨音で目が覚めた。 焦げた肉の臭いが鼻を刺激する。 そこは辺り一面瓦礫の山だった。ぶすぶすと音を立て、炎がくすぶっている。熱を孕んだ風が彼女の頬を焼く。半壊した家屋の中で意識があるのは彼女だけだった。 彼女はへたり込んだまま、虚ろな視界の端々に黒焦げた物体を映した。苦悶の表情に引きつる物体。折り重なって張り付く物体。かつては人間だった物体――その成れの果てを。 (一体いくつあるんだろう) ぼんやりと思考する。 (あそこに折り重なっているのがおとうさんとおかあさんだ) 彼女は両親から目を離し、妹を探す。足元に転がっていた妹は、火傷を負ってはいるけれども確かに呼吸があった。 (気絶してるんだ) ふと、彼女は頬を伝う体温に気づいた。それをわざわざぬぐう気力もなく、そのまま彼女は倒れた。 叩きつける雨に、幼い体は徐々に体温を奪われて行く。雨音に混ざって人の集まって来る気配を感じたが、どうでもいいことだった。 閉じた視界ではなにも見えない。降り注ぐ雨音のせいでなにも聞こえない。もう、焼けた風も焦げた臭いもなにも感じない。 意識が途切れる最後の瞬間、彼女は自問した。 (どうしてこんなことになってしまったんだろう) 答えは返るはずもなく、ただ心の中で反響する。 自分が生きているのか、死んでいるのか、それすら、もはや、どうでもいい。 もうなにも感じない。
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