小説 | ナノ

昼_2 


 他の多くの町がそうであるように、アルナーの中央部にも広場があります。他の町のそれより規模は小さいものの、人々の憩いの場であることに変わりはありません。
 今日は市場の日ではありませんが、それなりに人が集まっています。
 歓声を上げて走り回る子供、仕事の休憩中らしい大人たち、簡素な屋台、地べたに座り込んだ露天商。歓声、おしゃべり、売り込みの声、鳥のさえずり、虫の声――喧騒と呼ばれるものが辺り一面に溢れていました。

「あたしいつも気になってたんですけど、あのろてんの人は何を売っているんですか?」

「怪しい品々だ。人を指さすな」

 はしゃぐフランに、ヘリオスは思わず苦笑します。

「楽しいか?」

「はい!だって、ヘリオスさんとおでかけするのって初めてですよ。いつもお仕事で…ってどうしたんですか?」

「休日に子供に駆り出される父親の気分とはこんなものだろうか」

 ヘリオスは、心のどこかではまだまだ十代で通せると自負していただけに、父親の気持ちがわかることはショックなようです。
 ふと、ヘリオスは振り返りました。

「おい、なんだかラザ、暑さにやられていないか?」

 見れば、舌を出してぜはぜは言っています。分厚い白い毛皮を常にまとっているから、こうなるのも当然と言えましょう。

「そっか、わん太は暑がりだったね。ごめんね。あたし、気づかなくて…」

「とにかく休ませよう」

 フランがアイスを見せつけながら食べたのも地味に堪えたかもしれませんが、ヘリオスは黙っていることにしました。
 広場の周りには木々が植えられています。手近な木陰にラザを連れて行き、フランは帽子で扇いであげました。

「うむむ…これからは昼休みではなく夕方くらいに外出してはどうだろうか?」

「そうですねー…」

 ヘリオスが噴水の水を汲んで来て、ラザに飲ませました。

「…どうだ?」

 ラザは尻尾を振って応えました。ちょっとは元気になったようです。

「この器ってどうしたんですか?」

「ああ。この子から借りた」

 言って、ヘリオスは振り返りました。その視線の先には赤ん坊を背負った女の子がひとり。

「いや、わたしたちもおままごとに使っていたお皿ですから、気にしないで下さい。…こんにちは。フランちゃん」

「うげ」

 そのままぱたぱたと片手を上げてあいさつしたロジーに、フランは心底嫌そうな態度を隠そうともしませんでした。


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