小説 | ナノ

昼_1 


 しゃく、しゃく。規則正しい音を立て、アイスが掘削されていきます。

「うはぁ…」

 フランはうっとりとアイスを頬張りました。

「あたしはね、ガラスのおさらとぎんのスプーンがアイスをよりみわくてきにするとおもうわけ。うん」

 よくわからないことを言いながらもう一口。

「(…何故わたしには食べさせてもらえないんだ?)」

 ラザは薄いピンクのアイス――さくらんぼ味――を恨めしげに眺めました。

「あ、ほしいの?ダメだよ。むしばになっちゃうから」

 あげないよー、きゃはははは。フランはわざとらしく見せびらかしながらしゃく、しゃく、しゃく。

「(拷問だ…)」

 日差しのせいでアイスどころか脳まで溶けてしまいそうな時間帯。アルナーの町は昼休みを迎えていました。
 フランとラザは、この時間帯になるといつも町へ遊びに来ます。
 ただ、いつもと違うのは、ヘリオスも一緒に来ていることです。アイスを奢ってあげる約束をしましたし、ついでに何かしら買い物をして行こうという話になったからです。

「おじちゃん、アイスもういっこちょうだい」

「買わんぞ」

 間髪を入れず、ヘリオスが鋭く言いました。
 ヘリオスは私用だからか、一般の平民が着るような服装をしていました。飾り気がなく、簡素でありながら、動きやすくて丈夫そうな服です。彼は少しだけ先端の尖っている耳と、額にある宝石に似た眼を、目深に被った帽子で隠していました。唯一、腰の剣だけはいつも通りでしたが、元々装飾の少ない造形なため、さほど目立つことはありませんでした。

「…ぶぅ」

 フランは思わず唇を尖らせました。齢相応の愛くるしい表情です。
 そこへアイス屋の店主が口を挟みました。

「おいおいそれくらい買ってやれよ、お父さん」

「駄目だ。氷菓の食い過ぎは腹を壊す。というか…」

 キリキリと目尻が吊り上がり、唸るように低く一言。

「俺はまだ二十歳だ」

 店主は鷹揚にうなずき、

「そうか…。苦労したんだな」

 ポン、と肩に手を置きます。

「わかっている。みなまで言うな!わかるぞ青年!!」

「いや人の話聞けおっさん」

 ひたすら一人で盛り上がるアイス屋店主には、ヘリオスの声は届きませんでした。


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