小説 | ナノ

昼下がり_6 


 フィルがハーブティーを淹れて戻って来ました。
 ひんやりとした硝子製のティーポットの中に茶葉と花弁が揺れています。香り高く、見た目にも涼しげです。
 新たな興味の対象ができたフランは、ここにきてよやくサルファーを解放しました。サルファーはよろよろと飛び上がり、テロルの頭上に避難しました。

「いただきまーす」

「これな、ミルクを入れると美味しくなるよ」

「ありがとうございます、フィルさん」

 差し出されたミルク壺の中身を注ぎ、口を付け、フランは目を丸くしました。

「…おいしい!フィルさんはお茶いれるの上手ですね!すごいです!!」

「よかったぁ。口に合うか心配だったんよ」

 フィルは胸を撫で下ろしました。
 そして、ちょっとだけ真面目な顔をしました。

「…なぁ、フランちゃん。うちのことはフィルでいいよ?」

「え?」

 フランは目を瞬かせました。

「フィルって呼んでほしいなぁ。そんで、うちはフランちゃんと友達になりたいんよ。いいかなぁ?」

 いきなりそんなことを言われ、フランは戸惑いを隠しきれないようでした。

「だって、あなたは大人じゃないですか…」

「大人と子供が友達になるのは、おかしいことかなぁ?」

「うーん…?でも、そんなの聞いたことありません」

 首をひねるフランに、フィルは安心させるように微笑みかけました。それは柔和でありながら、しなやかな強さを感じさせる笑みでした。

「なぁ、フランちゃん。うちはなぁ、友達になるのには『なりたい』って気持ちだけがあればいいと思うんよ。年の差とか、男とか女とか、種族とか、そういう種類とは関係ないところで繋がることなんじゃないかって…、仲良しになりたいって思えばそれが全てなんじゃないかって」

「お前とて、犬であるわん太と友達だろう?それと同じだとは思わないか?」

 ヘリオスがラザの頭を撫でながら言いました。
 フランはちょっと考えてから頷きました。

「そう言われると、そうかもですね」

「じゃーあたしのこともテロルでいいわよー。ついでに、ですます調で喋んなくてもいいからね。ンな喋り方する奴はどーも胡散臭くって」

「お前…相変わらず捻くれた人生を送っているな」

「しみじみ言ってんじゃないわよー!!」

 テロルとヘリオスの間で本日何度目かわからないやりとりが勃発。

「だ、だめ!フィルちゃんとテロルちゃんは仮にもヘリオスさんと知り合いなんだから、よびすてになんてできないよ!」

「そのわりには適応能力高いわね!?」

「な。おもしろいだろ、こいつ」

 ヘリオスが腕を組んで頷いています。

「ついでに俺のことも『さん』を付けて呼ぶのは止めないか?」

「だめですよう。ヘリオスさんはあたしの雇い主です。これでもあたしなりに『さま』から格下げした結果の『さん』なんですからね」

 フランは最初、ヘリオスとその家族のことを様付けで呼ぶつもりでした。しかし彼らがその呼ばれ方に抵抗を示したため、妥協を重ねて「さん」付けに落ち着いたのです。その結果に至るまでには一進一退の攻防がありました。
 その光景が想像できたのでしょう。テロルは依然として不服そうなヘリオスの背中を叩きました。爆笑です。

「あんた、頑固者にはとことん弱いわね!」

「やかましい」

 ヘリオスはテロルの腕を払い除けました。


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