小説 | ナノ

朝_4 


 朝食の片付けが終わり、フランはお洗濯の仕事を任されました。

「よいしょー!いっくよー!」

 カゴ一杯の洗濯物をラザの背中に乗せて、庭の井戸まで運びます。フランには少々重い洗濯物のかたまりも、ラザに手伝ってもらえば楽ちんです。
 あたりにごしごしと音が響き、ラザが隣でうつらうつらとし始めた頃、エオスがやって来て言いました。

「お水を飲ませて下さいな。歌い続けて喉が渇いてしまいましたの」

「どうぞー」

 エオスはからからと滑車を引き上げ、桶の水をごくごくと手酌で飲み、ぷはぁと息をつきました。

「ふぅ…。やっぱり井戸水は冷たくて気持ちいいですわね」

「こんどはなんのうたをうたっていたんですか?」

 もみ洗いの手を止めないようにしながらフランは聞いてみました。

「しいて言うならお掃除ソングですわね」

 箒や雑巾を自在に操る魔法だろうかとフランは考えました。

「ちょっとは綺麗にしておかないと。今日か明日、セレネが帰って来るらしいので」

「わあ、それは楽しみですね」

「うふふ、そうですわね。あの子はちょっと堅い子なのですけど…でもフランちゃん達ともきっと仲良くなれると思いますわ」

 セレネは、エオスとヘリオスの妹です。なんでも、お医者さんとして各地を放浪していて、夏にしか帰って来ないのだとか。

「あの子ったら元気かしら〜。楽しみですわ〜」

 うふふと笑うエオスの横で、フランは自分もちゃんとだけわくわくしていることに気付きました。こんな気持ちになるのは初めてでした。
 しかし、フランはゆるくかぶりを振ると、ぎゅっと両手を握りしめました。

「あのぅ…、話変わるんですが…」

 そして、どこか躊躇いがちに前置きをしてから、エオスを見上げました。

「あたしもエオスさんみたいなまほーつかいになれますか?」

「うふふ。どうでしょう?訓練次第ですわね。でも、それよりも先に覚えるべきことは沢山ありますわよ?」

「ふぁい…」

 フランには家の仕事の他にも、教養や、語学や算術、歴史など、勉強しておかなければならない事柄が山のようにありました。それらを思い、フランはがっくりとうなだれました。

「ところで、私からも質問がありますの。…その格好、暑くないのですか?」

 言われてフランは自分の格好を見てみます。
 厚手、長袖のタートルネックワンピース。リボン付きニーソックス。どう見ても冬用のブーツ。しかもそれらの色は全て黒で、夏の日差しを容赦なく浴びせられています。普段ならさらにベストも着用です。

「あ、たしかにここんところ着っぱなしでしたねー。…やっぱりくさいですか?」

 不安そうにくんくん鼻を動かすフラン。

「匂いなんて全然しませんけど、見ている方が暑苦くなりますわね」

 以前にフランが「あたしはあまり汗かかないの」と言っていたことをラザは思い出しました。

「これしか服がないんです。後であらいますね」

「これしか服が…無い…ですって?」

 エオスはわなわなと震えました。

「大変ですわ。何故今まで思い至らなかったのかしら」

 エオスは顔色を変えて走り去って行き、

「…なんだろうね、わん太?」

 フランは汗一つない顔でキョトンとし、ラザはだるそうに鼻を鳴らしました。


[戻る]
×