小説 | ナノ

朝_2 


 フランのお仕事は、ヘリオスという人のお屋敷でお手伝いをすることです。
 ラザのお仕事は、お屋敷に招かれざる客人が来ないように見張る番犬です。
 二人(正確には一人と一匹)は、元々は別のお屋敷で奉公していたのですが、その主人を亡くし、ヘリオスのもとにやって来たのでした。

 これは、ヘリオスに雇われてから数日後のお話です。

 朝ご飯の手伝いをするため、フランはいつものようにキッチンへ向かいました。
 しかし今日はいつもと違い、キッチンからはきれいな歌声が流れてきます。
 フランがどきどきしながら中を覗くと、金髪の若い女性――エオスが、歌いながらお鍋をかき混ぜていました。
 リズミカルな旋律に身を任せるように、食材や食器がくるくると動き始めます。
 包丁は野菜を刻み、エオスのかき混ぜるお鍋に案内します。
 一方、ボウルの中では卵とミルクが軽快なリズムを刻み、混ざり合ったその中にパンが次々とダイブするのでした。

「すっごーい…」
 
 フランが思わずつぶやきをもらすと、エオスが片耳がぴくっと動かし、

「あら〜。おはようございます」

 振り返っておっとりと笑いました。

 エオスは、ヘリオスのお姉さんで、朝焼け色の長い髪と、豊満な肢体と、いかにもおっとりした仕草が特徴的な女性です。年齢は今年で二十五…のはずですが、二十歳前後に見えます。ええ、見えますとも。

 そんなエオスは、戸口で突っ立っていたフランを手招きしました。

「お手伝いなら、そこのお肉を焼いてくださいな〜」

 見ると、ハムがこそこそと食卓から逃げ出そうとしております。

「お肉は逃げやすいんですの」

「そういうもんだいなんですか!?」

 フランはハムを捕まえようと、あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。
 だけど、ハムはなかなかすばしっこいのです。
 結局、ラザも巻き込んでやっと捕らえることができたのでした。


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