小説 | ナノ

01 


 四角い鉛色の空からは、白色がちらほらと舞い降りていた。


 「雪が周りの音を吸い取るなんてウソだな」

 子供らのはしゃぐ声は二階のこの部屋まで届いているではないか。ひんやりとした窓ガラスに額を押し付けながら、白い呻きを洩らす。

「雪合戦…、そりすべり…、雪だるま…みんな、あんなに楽しそうに」

 見せつけやがって。

 忌々しく思いながら舌打ちをしようとし、咳こんでしまう。あの中に加わることができない理由は風邪だった。
 自分は体が弱い。寒い日に高熱を出して寝込むのはいつものこと。だから雪が降る度に先生達は、

「はーいレファルくんはお風邪をひくといけないからねー」

 などと抜かしつつ自分を軟禁する。まあ、雪遊びがしたくて部屋をこっそり抜け出すのを繰り返し、その度に倒れていたので仕方ないことなのかもしれない。

「あーあ。せっかくの初雪なのにな!」

 どうせ今も扉の外には見張りがいるんだろ?先生達もヒマだな…。

 熱でぼんやりする頭で脱走を考え…止めた。
 この孤児院の先生達は手ごわい。自分は、長年の付き合いでそのことをよく知っていた。
 しかし、ただ寝ているのもなんだか悔しいので、飽きるまで窓の向こうを眺めて過ごすことに決めた。


 初雪とは思えぬほど積もった白色。その上を、小さな子供が歩いていた。
 見たところ、自分よりも年下。体よりも大きなコートを羽織り、背中に幼い子供を背負っている。二人とも髪が短いが、おそらく姉妹だろう。
 たちまち二人を「先生」達が出迎え、保護する。

「――また新しい子が来たのか」

 ようこそ子供達の楽園へ。

 自然と皮肉な笑みが浮かんだ。

 ふと、背中に背負われていた方と目が合った。薄紫の大きな目がこちらを無感動に見上げ、そして一方的に逸らされる。
 背負っていた方も視線に気づいたのか、こちらは薄緑の目で見上げてきた。思わず睨んでやろうとした瞬間、ふっと…伏し目がちに微笑みかけられた。

 ――これからよろしくお願いします――

 そんな笑顔だった。


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