小説 | ナノ
伍
文拡月みっか あめ
今日は、何から書けばいいのでしょう。わたしにはなんだかよくわかりません。いいえ、きっとおとうさんもおかあさんもおわかりになってない。慧羽だってそう。
おとうさんとおかあさんは今日も言い争いでした。おとうさんはお仕事で長い間出かけなければなりません。よりによっていくさがはじまりそうな西の国々に。だからおかあさんは反対します。でもおとうさんは、街に買い物にいけない人々に物を届けることに使命を感じていました。 だから、だから毎日毎日、ごはんの時間すらもケンカばかりで、ついに慧羽が 「やめて」 って叫びました。 みんな、この時初めて慧羽が大声を上げるのをききました。 そのことにもおどろきましたが、もっとおどろくべきことがありました。 叫んだ拍子に慧羽の両手に炎が灯ったのです。 それはマッチの火くらいの勢いで、すぐ消えたけど、たしかにこの上なくはっきりと灯っていたのです!絵本に出てくる魔女みたいに! ああわたしまだ混乱している。でも慧羽だって何をしたかわかっていないみたいだから、わたしがわからないのも無理ないことでしょう? とにかく、まるでみんなの時間が止まったみたいになって、やがて、おとうさんが 「すごいっ」 ってこうふんしはじめて、 「この子は将来りっぱな魔法使いになるに違いない」 とおっしゃいました。 でもりっぱな魔法使いになるにはたくさんの勉強がひつようなのだそうです。だからおとうさんは、よい先生を見つけるまでお仕事を延期すると宣言なさいました。それをきいておかあさんはすごく久しぶりに笑いました。 おかあさんが笑うとおとうさんも笑いだして、わたしもなんだかよくわからないけどうれしくなって笑いました。
ああ神様、わたしの妹は魔女でした! でも炎が出たことよりも、おとうさんとおかあさんがもとどおりになったことのほうがよっぽどすてきな魔法ですよね。
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