小説 | ナノ
参
小さな女の子が一人、机に向かって何事かを書き綴っている。たどたどしい筆跡ながら、一字一字に想いを込めるかのように。丁寧に。 机に向かうのは背中まで伸ばした暗灰色の髪と、ガラスのような薄緑の瞳、バター色の肌をした女の子。 彼女の趣味は一日の終わりに日記を綴ること。 カリカリとペンの音が響き、文字が紙の上を躍る。 その様子を彼女の妹はぼんやりと眺めていた。 風待月ついたち はれ
うすうす気づいてはいましたが、どうやら妹はかなりおとなしい子らしいです。 今日だってぼんやりとした目でかべの方を見てじっとしていました。おなかがすいてもないたりしません。 ちょっとしんぱいです。
でも、おかあさんは 「慧羽はあまり泣かないので助かります」 なんてくすくす笑っています。 「白堊は夜泣きするし、あばれるし、ころがるし、本当に大変だったんですよ」 …らしいです。
本当にころがったりしたのかな…。
わたしはその頃のことをぜんぜんおぼえていないので、なんだか変な感じがしました。 いつか慧羽も、わたしとおんなじように赤ちゃんだったころのことなど忘れてしまうのでしょうか。 なんだかさびしい気がします。
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