小説 | ナノ
弐
年積月すえのいつか はれ
すこし間があいてしまいました。このところ妹が生まれてばたばたしていましたから。 せっかくなので、妹が生まれた時のことを書いておこうとおもいます。
その日の朝の空気はひえびえとしていて肌寒かったことをおぼえています。わたしの体がこわばっていたのはその空気のせいだったのでしょうか。それとも、緊張のせいだったのでしょうか? こんな状態でずっと座っているのですから、空気を裂くように産声が聞こえてきたとき、わたしはほっとしたのです。そしてそれは横に座っていらっしゃるおとうさんもおんなじのようでした。 しばらくしてとびらが開き、中年の産婆さんが顔を出しました。 すっくとおとうさんが詰め寄ります。 「母子ともに健康ですよ。どうぞ」 おとうさんがなにごとかを言うよりも早く、産婆さんはわたしたちをへやに入れました。 わたしはこの時とてもとてもどきどきしていました。
おとうさんに抱き上げられて、おかあさんのそばまで行きました。 おかあさんはつかれたお顔でベッドに横になっていました。 おかあさんの横に、白い布にくるまれた赤ちゃんがいました。 その子はくしゃくしゃの赤いかおをしています。薄紫の目でぼんやりとわたしの顔のあたりを見上げていました。その子の小ささにほんとうにびっくりしました。 「かわいいね」 こころからそう思いました。 「女の子です。名前は…慧羽」 「え…ば…?」 「そう、慧羽。生まれたばかりのあなたの妹ですよ。 これから仲良くしてあげて下さいな」
わたしが慧羽のてのひらにゆびをからめると、慧羽はキュッとにぎりしめてきました。まるで、あくしゅするみたい。 「はじめまして、慧羽。わたしは白堊。あなたのおねえさん。よろしくね」
わたしはこの時のことをずっとずっとわすれないでしょう。
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