08
会話の途切れ目に聞こえて来たのは、かすかな物音。
まずハクが気づいて、扉に目を向ける。少し遅れて、自分も。
扉の向こうからぼそぼそとした子供の話し声。
「…ちょっ!?押さないでよこのバカ!!」
「ねー。何ゆってんの聞こえないよー」
もぞもぞとした衣擦れの音まで聞こえて来た。
「?何やって――」
「…しっ」
ハクはこちらを手で制し、擦り足で歩いて行く。
その歩みは床を全く鳴らさず、埃を最小限しかたてず、気配も完全に絶ち、彼女はノブを一気に開けた。
現れたのは、
「うわ!?なに!?」
子供数人及び、
「ほぅ。若いっていいわね〜」
ベアタ夫人。
「…何覗いてんですか」
思わず呆れ顔になってしまう。ハクは恥ずかしそうにうつむいた。
「おもしろそうだったからヒマな子誘ってみたの。別にやましいことはしていないわ」
「充分やましいです!!」
悪戯っぽく笑う老婆。後ろの子供たちもにやにやと笑う。
「いつになったらいちゃいちゃするのか楽しみにしてたんだよっ」
「トニーはいつ白堊にぶっ刺されるかワクワクしながら観察していた」
「なのにぜんぜん話聞こえないしー」
「ねー」
口々に好き勝手なことをはやし立てる。
自分は笑いながら手近な子の頭を掴んで前後に揺さぶってやった。
「はっはっはー。勝手なことをぬかすと、流石にこの温厚な私でも怒るよー?」
「ちょ、うわ止めろいや止めて下さいまじで!?」
なんだか悲鳴じみた声が上がるが気にしない。
「いやぁぁ!!トニーが!トニーが!!」
「ふむ。覗きなどという卑劣な行為をする悪い子にはお仕置きするよ?」
全員の顔をぐるりと見渡すと、数人はさっと青ざめた。だが、年が上になるほど効果はないようだ。特に、夫人には。
「さぁみんなー、この怖いお兄ちゃんから逃げましょうねー!」
そのベアタ夫人の号令で連中は蜘蛛の子を散らして駆け出して行く。…トニーを見捨てて。
「って逃がすか!!」
自分も部屋の外へと飛び出す。
「レファルさん、何でわざわざ追うのですか…?
というか、皆さん廊下は走らないで下さい――!!」
背中ごしにハクの怒声が響いた。
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