※ほんの少しBL要素を含みます

「テツ君って、好きな人いるの?」

帰り道、夕焼けに染まる白い頬に、勇気を出して問いかけてみた。
深い蒼が二つ、驚いたような色を滲ませて、私を見つめた。
それだけで、私の心臓は、きゅっと悲鳴をあげる。

「……どうしたんですか、突然」
「なんとなくだよ」

えへへ、ととぼけて笑ってみせる。
尚も彼はきょとんとしていたが、私の能天気な笑顔を見てすぐ

「そうですね……」

と思案顔になった。
彼は優しいから、相手の言いたくないことを無理に追及したりしない。
それを知っていてこんな行動をとっている私は、ずるい子だ。

「――居ますよ」
「……え?」
「好きな人」

息が詰まった。
彼は恋愛事に興味が無いと思っていたから。
もしかして、もしかして、と期待が心に顔を出す。

「へえ……、どんな、人なの?」

彼は私に深く尋ねることをしないのに、私はどんどん踏み込んで行く。
本当に、ずるい。
私の計りごとを知る由も無い彼は、夕陽の中で微笑んだ。

「真っ直ぐな人です。好きなことに一生懸命で」

無意識に自分と比べてしまう。

「笑うと可愛いです」

私のことかな、なんて。

「格好良くて。好き、というよりは、憧れに近いかもしれません」

踊る鼓動を抑え、真っ直ぐ前を見る彼の目線を追い、私の笑顔は凍った。
もしかして、もしかして、と今度は絶望が顔を覗かせる。
心臓が、先程とは種類の違う鼓動を刻み始めた。

「大雑把に見えて、すごく気がつく」

彼が見つめるのは、大きな背中。
私がずっと追いかけて、守られてきた、背中。

「ぶっきらぼうに見えて、優しいんです」

知ってるよ。
私が泣いてると、大きな手で撫でてくれた。

「運動神経も、すごく良くて」

そうそう、生き物を捕るのも得意なんだよね。
私、蛙を頭に乗せられたことがあるんだよ。

「勉強は、ちょっと苦手なんですけど」

だって、言っても全然勉強しないんだもん。
テスト前は、私がノートを見せてあげるんだよ。

「あと、純粋で」

うんうん、普通、中学生にもなって、サンタなんて信じないよね。「ボクのことを、必ず見つけてくれるんです」

――私だって。
私だって、見つけられるのに。
誰よりも早く、見つける自信があるのに。

「ボクのことを、見ていてくれるんです」

私だって、ずっと見ていたのに。
笑顔も、泣き顔も、悔しがってるのも照れてるのも、全部見ていたのに。
鮮明に思いだせるくらい、見ていたのに――。

「桃井さん?」

急に黙りこくった私を心配してか、彼はそっと顔を覗きこんできた。
優しい。

「どうかしましたか?」
「ううん、大丈夫!」

彼は、本当に優しい。

「テツ君、頑張ってね!私協力するから!」
「……ありがとうございます」

微笑み、仕草、髪の色から瞳の色まで、全てが、全てが、優しい。

「ボクも、桃井さんに好きな人ができたら協力しますね」
「本当?ありがとう!」

けれど今は。
その優しさが。

ひどく残酷だ

(それでも憎めないのは)
(まだ貴方を好きだから)


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