(泣くな、さつき!)
(おまえはぜったい、おれが守るから!)
夢、だ。
昔の、夢。
蝉の声が五月蝿いから、思い出したのだろう。もう九月なのに。
あれは確か、二人で山に遊びに行ったときだった。あの日は凄く天気が良くて、蝉が元気に鳴いていた。
虫採りに行くと笑った大ちゃんに、私も行きたいとごねて、ほぼ無理矢理ついて行った。
それで迷って、帰れなくなって、どんどん暗くなって、不安になった私は泣き出した。
それを大ちゃんは、ずっと慰めて勇気付けてくれていた。自分も不安でいっぱいだったのに。
(……懐かしいなあ)
ベッドに寝たまま、私は右手を上に突き出した。あの日彼が握っていてくれた、右手。
私と変わらぬ小さな体と、小さな手。
それが今は、私の何倍も、大きい。
ふ、と笑みが零れた。
「おはよう、大ちゃん」
「……おう」
「今日は早いね」
「お前が遅いんだよ」
並んで、通学路を歩く。
身体は大きくなったけど、中身は何も変わってない。
「何、笑ってんだ」
「ん、別に」
変な奴、と大ちゃんは私を見下ろした。
ふふ、と私はまた笑って、大ちゃんを見上げる。
「ねえ、大ちゃん。手、繋ごう」
「はあ?何言ってんだ」
「えー、いいじゃん。この道、人通り少ないし」
大ちゃんは何も言わない。それを許可と取った私は、彼の手に指を絡めた。
大ちゃんは不機嫌そうな顔をしていたけど、黙って私の手を包んでくれた。
変わらないね
(この道の景色も)
(あなたの優しさも笑顔も)