「お弁当作ってきたの!」
リコの一言に、誠凛高校男子バスケ部一同は凍りついた(水戸部は震えだした)。
「か、カントク、無理しなくていいから……」
日向がやんわりと制止しようとするが、上機嫌のリコは既にピンク色の大きな弁当箱を取り出していた。
部員たちの顔が、より一層蒼白になる。
「大丈夫!今日は絶対大丈夫だから!」
何を根拠に、と口にしそうになったが、折角作ってくれたことに対する申し訳なさが上回り、声には出さなかった。
「じゃーんっ!」
リコが弁当箱の蓋を持ち上げると、そこには。
「お、おおーっ!」
俵型のおにぎりと一緒に、様々なおかずが彩りを考えて丁寧に詰められていた。
「こ、これっ、食べていいの?」
「ええ、どうぞ!」
リコから割り箸を渡され、部員たちはおそるおそる、弁当へ手を伸ばす。
ぱくっ、と一口食べ、部員たちは目を見開いた。
「ふ、普通だ…!」
「そこは美味しいって言いなさいよ!」
どこかで見たようなやりとりが繰り広げられる。
再びおかずを箸でつまむ部員たちを見て、リコは無い胸を張った。
「まあ、まだ試作品だから全員分は無いんだけどね。私にしては、上出来でしょ?」
「ああ、本当に」
木吉が、大きな手をリコの頭に置いた。
「美味いよ、リコ」
木吉の優しい笑顔を見上げて、リコは照れ隠しのためか早口で話した。
「あ、でも、独りで作ったわけじゃないのよ?ちょっと早めに学校に来て、調理室借りて、一緒に作ったの。火神君と」
「……火神?」
木吉の低い声が、日向の耳に入った。と同時に、伊月の目が、険しくなった木吉の顔を捉えた。
やばい、と溜め息を吐いた二人は、部員たちをすっと後ろに下げた。特に火神を一番後ろに。
「リコ」
「え?」
木吉が、がっしりとリコの肩を掴んだ。リコは何が起こっているのか分からず、ただ目を泳がせている。
リコに視線を合わせ、木吉は真剣な顔で言った。
「あんまり、他の男と二人きりになるな」
「……へ?」
「不安になるから。俺」
リコは頬を染め、恥ずかしそうに俯いた。
「……うんっ」
まるでそこは二人が主演の舞台である。客と化した部員たちは、全員が心の内で呟いた。
(お腹いっぱいです……)
焦がす
(『心』はいいけど)
(『料理』はだめ!)