黒は熱を吸収する。
しかし黒い服を好む彼女は涼しげな顔だった。

「遅いねー」
「遅いっすねえ」

遊馬崎と狩沢は、地面に置かれた大きな紙袋を眺めながら、独り言のような言葉を交わした。
いつものように、アニメショップに来て大量の買い物をしたは良いのだが、迎えのワゴンが来ないのだ。

「暑くないっすか?」
「私は大丈夫だよー。ゆまっちは?」
「大丈夫っす」
「今日は天気がいいねー」

日射しがさんさんと降り注いでいる。日陰に立ってはいるものの、周囲の空気は熱を持っていた。

『お嬢様、メールでございます』

甘い声が響いた。どこか二人の知り合いに似たその声は、狩沢の携帯電話から聞こえてきた。
折り畳み式のそれを開き、画面に眼を滑らせる。

「まだ渋滞解消されてないみたい」
「門田さんっすか」
「うん。倒れるなよ、だって」

どうも送り主は、自分たちを子供扱いしている節がある。いつも迷惑をかけてられていれば、親のような気分にもなるのだろうか。

「じゃあドタチンの言うこと聞いて、倒れないように水分補給しよう」
「はいっす」
「ゆまっち自販機行って来てー。私はお茶でいいよ」
「なんすか、それ!」

予想外の展開に、遊馬崎は素っ頓狂な声をあげる。
それに対して、狩沢はあくまで冷静に言葉を紡いだ。
彼女の頭の中は、買った漫画や小説に一刻も早く目を通したいという思いでいっぱいなのか、瞳はぼんやりと虚空を見つめている。
取り合ってはくれないだろうとは思いながらも、遊馬崎は抗議した。

「おかしいっすよ、どうして俺がパシられなきゃならないんすか!」
「お会計のとき、小銭出してあげたじゃん」

とは言っても、たった二十四円である。
狩沢はそんなことなど忘れたとばかりに、唇を尖らせて音の出ない口笛を吹いている。
溜め息を吐いて、遊馬崎は近くに見えていた自販機へ走った。先程までいた日陰からは、そう距離は無い。
狩沢の茶と自分の炭酸ジュースを買って、遊馬崎は日陰に戻った。

「ありがとー」

狩沢は茶を受け取るやいなや、プルトップを引き、缶に口を付けた。

「そのお茶でよかったっすか?」
「うん、なんでもいい」

自らも缶を開ける。ぷしゅっと小気味よい音がした。

「狩沢、遊馬崎」

名を呼ばれてそちらを向くと、少し離れたところに見慣れたワゴン。助手席から顔を出す仲間。

「わ、やっと来た」

安心したように言って、狩沢は紙袋の持ち手に手を掛ける。とても片手で持てる大きさではなかった。
その事実に気づき、動きを止めると、遊馬崎が持ち手の片方を掴んだ。
意図を察し、狩沢も余った方を掴む。
せえの、と息を合わせ、持ち上げた。

「全部同じ袋に入れてもらってよかったっすね」
「ねー」

言葉を交わしながら、二人は軽い足取りで、仲間の待つワゴンへ向かった。

今日もこの街は平和です

(鼻歌うたって)
(あるこうか)

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ぎぎ様からのリクエストで「ほのぼのな遊馬狩」でした。リクエストありがとうございました。
まず、作品をお届けするのが遅くなってしまって、本当に申し訳ありませんでした。
遊馬狩、解らないし、そもそも書いたことが無い…状態でしたが、いかがでしょうか?ほのぼの?ぎぎ様の好きなドタチンも登場させてみました!
よろしければお持ち帰りください。ぎぎ様のみお持ち帰り可です。
今後も当サイトをよろしくお願いします。

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