カラン、と涼しげな音が鳴った。コーヒーの薫りに包まれた桃井は、店の奥に見慣れた顔を見つけ、薄く微笑みそちらへ歩く。
「大ちゃん」
声をかけると、青い瞳がこちらを向いた。
「遅えよ、さつき」
「うわ、大ちゃんにそんなこと言われる日が来るなんて」
楽しげに笑いながら席に着けば、青峰は大袈裟に溜め息を吐いた。
「お前が呼び出したんじゃねえか」
「ねえねえ、もう飲み物注文した?」
「話を聞け」
呆れる青峰に、桃井は顔の前で手を合わせる。
「ごめんね。私が注文してくるから、それで許して」
動きとは裏腹に、全く謝る様子の無い桃井に、青峰はまた一つ溜め息を吐く。
さっさと行って来い、と追い払うように手を振ると、桃井はにっこり笑って立ち上がった。
しばらくして、プラスチックの入れ物を二つ持った桃井が戻ってくる。
「……金」
「いいよ、私の奢り!」
「悪いな」
「いいの、私が遅刻したんだから」
あっさり引き下がり、青峰はカフェラテを一口飲む。
桃井も、嬉々としてフラペチーノを飲んでいた。
「で、何の用だ」
青峰は容器を一旦テーブルに置き、話を切り出そうとしない桃井をちらりと睨めつける。
鋭い視線に動じる様子もなく、桃井は鞄から手帳を取り出し、それに挟んであった写真を青峰の前にちらつかせた。
「部屋片付けてたら出てきたの。わかる?」
「……三年の、帝光祭か?終わったあとに撮った」
「そう!懐かしいよね!」
楽しそうに笑う桃井の手から写真を受け取り、青い瞳を滑らせる。穏やかな雰囲気で笑う、青春時代の自分と仲間たち。
「この頃はまだ」
後悔のような、自責のような言葉が漏れる。それを聞いた桃井の長い睫毛が伏せられた。
「うん、楽しかったね。夏祭り行ったり、みんなで一緒に帰ったり」
「あー、あったな」
青峰は写真をテーブルに置き、カフェラテを飲む。
頬杖をついてそれを眺め、桃井は微笑みを浮かべた。
「帰りにさ、よくみんなでコンビニ寄ったよね」
「アイスな。緑間の奴、やたら当たり棒ばっかり当ててたな」
「当たり棒と言ったらテツ君でしょ」
「そりゃお前だけだろ」
は、と短く笑いを溢した青峰の表情は柔らかい。
それを見つめながら、桃井はフラペチーノを吸う。
しばらくぼんやりと写真を眺めていた青峰が、ふと口を開いた。
「緑間のラッキーアイテムのサボテン踏んだのは、黄瀬だったか?」
「うん。ムッ君のお菓子を粉々にしたことも、一度や二度じゃないよ」
「本当駄目だな、あいつ」
「怒ったムッ君、怖かったね。きーちゃん本当にひねり潰されそうだった」
「紫原が言うこと聞くのは赤司だけだろ」
「そんなこと無いよ、素直だったよ」
「テツと喧嘩したときはびっくりしたけどな。テツ、いっつも厄介ごとには首突っ込まねえのに」
一度話を始めれば、あれもこれもと次々にエピソードが浮かび、止まらない。毎日何かしらの事件があった中学生時代だった。
プラスチック容器をつたう雫を眼で追い、桃井は静かに言った。
「夏休みになったら、みんなで集まろうよ」
突然調子を変えた桃井に、青峰は目を見張る。
「バスケしても、ただ喋るだけでもいい。またみんなで、楽しく過ごしたい」
一口コーヒーを啜り、青峰は低く呟いた。
「そうだな」
ああ青春の日々よ
(輝いていた)
(あの頃のぼくら)
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清水紅葉様からのリクエストで「中学生時代の思い出話に花を咲かせる大学生になった青桃」でした。リクエストありがとうございました。
まず、作品をお届けするのが遅くなってしまって、本当に申し訳ありませんでした。
文中に大学生という明記がありませんが…あの、大学生のつもりで書きました!しかも大した思い出話もしていないという…。
よろしければお持ち帰りください。清水紅葉様のみお持ち帰り可です。
今後も当サイトをよろしくお願いします。