※いろいろ捏造
「夢と判れば目覚めなかったのに……か」
つい先程届いた文を手で弄びながら、業平が艶やかに微笑んだ。
絵になるなあと感心しながら、康秀は問う。
「誰からですか?」
「恋歌を詠み合わないか、という私の申し出に乗ってくれてね」
康秀の問いには答えず、業平は楽しげに笑う。その頭には既に、返歌が浮かび始めているのだろうか。
少々呆れたような様子の康秀に、業平は悪戯っぽく片目を瞑る。
「小町からだよ」
「ええっ!?」
驚きと絶望の入り混じった表情で、悲鳴のような声をあげる康秀。
業平にとっては、それがたいそう面白いのである。
「私と小町の仲を疑っているのなら、読むかい?」
その顔の前で、ひらひらと文を振って見せる。それに合わせて康秀の目が動くのに気づき、業平は笑いを堪えた。
「……良いのですか?」
「問題無いだろう。私たちの仲だし」
躊躇いがちに文に手を伸ばし、文面を確かめる。
勿論その内容は、彼が疑ったようなものでは無い。
素敵ね、色好みと名高い貴方の恋歌を楽しみにしているわ、という挑発的な言葉と、和歌が一つ。
「思ひつつ寝ればや人の見えつらむ……」
「小町らしい和歌だな。繊細で哀切な、女心」
「ええ……」
暫しうっとりと、男二人は小町の和歌に酔った。
ふと、業平が口を開く。
「君も、小町から恋歌を贈られたいだろう」
「……は?」
何を言っているんだとでも言いたげな顔で、色男を見る康秀。
それを気にも留めずに、業平は事も無げに言う。
「君も恋歌を贈ればよいだろう。小町に」
「何を言うんですか。そんなことをして、許されるわけが無いでしょう」
「なに、ただの遊びじゃないか」
丁寧に文をたたみながら、康秀は大きな溜め息を吐いた。
「そもそも、私は恋歌が苦手なんですよ。以前も申し上げたでしょう」
「私が教えてやろう」
元の形に戻された文を受け取り、業平は微笑む。
「遊びでくらい、自由に詠んでみたらどうだ」
業平の微笑を少し驚いたように見つめてから、康秀は困り顔で笑った。
「考えておきます」
いざ、恋詠まむ
(和歌だけは自由だから)