双子の受難 -中編-


カミュを見送って、サヤはソファに戻ろうとして固まった。
よくよく考えたら、今日一日ときめかされっ放しの双子と夜を共にするのだ、と思い至って青ざめた。

「どうした、サヤ、気分でも悪いのか?」

すぐにサガが心配そうにやって来て、サヤの手を取り自分の隣りに座らせた。
サヤは、そっとサガを盗み見したが、サガはとても穏やかな表情で、何事もなかったように振舞っていて、やっと落ち着いた。

何故あんなに振り回されたのかしら。
きっと、カノンのせいね。
カノンがキスなんてしなかったら、サガの隣りであんなに動揺する理由なんてなかったもの。

サガもサヤを見やって、安心したように微笑んだ。

「顔色が良くなったな。座って落ち着いたか。何か飲みたいものはあるか?」
「寝汗をかいたからかしら。出来れば紅茶を頂きたいわ」
「紅茶だな、分かった。紅茶の好みは?」
「何でも。強いて言えば、ダージリンベースのフレーバーティーが好きよ」
「そうか。紅茶なら何種類かある。好きなのを選べ」

サガはテーブルの上に置かれたベルを鳴らした。
すると、部屋の奥から古代ギリシャ人のような格好の10代後半の少女が現れた。

「サヤ、双児宮付きのメイドだ。何か必要なものがあれば頼むといい。こちらは、カミュの姉だ。丁重にもてなせ」

サガがそう言うと、メイドは驚いたように円らな目を見開いた。

「カミュ様のお姉様!?とてもお綺麗な…」
「ふふっ、初めまして、カミュの姉のサヤよ。今は全然綺麗なんかじゃないわよ。ノーメイクだし、髪も服もぐしゃぐしゃだもの」
「そんな事全然ありません!!カミュ様に似て…その…」

メイドが言い淀むと、サガはフッと宥めるように笑った。

「サヤはここで風呂を使って着替えるから、その仕度を頼む。ああ、その前に紅茶を用意してくれ」
「かしこまりました、サガ様。どの紅茶にいたしましょう?」
「フランスのものがいいだろうな」
「では、パリの午後、などはいかがでしょうか?」
「フォションのパリの午後かしら?」
「はい」
「私、それ、大好きなの。それにして下さる?お砂糖だけでいいわ」
「はい!では、失礼致します!」

サヤが大輪の花が綻ぶような笑顔を見せると、メイドも嬉しそうに、そして何故か頬を少し染めて部屋を足早に出て行った。
思わずサガもカノンもサヤの笑顔に見惚れた。

全く本当に無自覚なのだな…。
あの笑顔は男だけでなく、女まで魅力するのだと…。

双子ゆえか、サガとカノンは同時に同じ事を思った。
サヤは少し不思議そうに首を傾げた。

「あの子、人見知りなのかしら?少し顔が赤くなったけど…」

そうサヤが呟くと、サガとカノンは顔を見合わせてくすくすと笑った。

「お前、自分の容姿に本当に無頓着なんだな。お前は似てるんだ、カミュに。あの娘もそう言ってただろう?」
「あら、容姿には気を配っているわよ?ファッションには手を抜かないの」
「いや、そういう意味じゃない。お前の素顔の事だ。俺は一目でカミュの姉だと分かったからな。サガもそうだろう?」

カノンの問いにサガは軽く頷いて同意した。

「サガとカノンはそう思うかも知れないけれど、シュラもアイザックもミロも気付かなかったわ」
「あいつは、カミュに惚れているんだ。気付かない筈がない。以前、何やら荷物を持つのを手伝ってもらったからと言ってたか。俺達に惚れられたら厄介だから好都合だがな。だから、カミュそっくりなお前に微笑みかけられて赤くなったんだろ」
「そうなの…。カミュったら、やっぱりモテるのね!そういう弟に育って欲しかったのよ!あの子がカミュに告白したかったら、私、力になるわ!」

拳を作って気合いを入れているサヤを見て、カノンは面白そうに笑った。

「お前、あれだけ弟の事が好きなのに妬かないのか?」
「どうして妬くの?妹が出来るかも知れないのよ?ずっとひとりっ子みたいで寂しかったし…。カミュの彼女へのプレゼントを一緒に選ぶのが夢だったんだから」

カノンは堪えきれないように笑ったが、サガはすまなそうに眉間に皺を寄せた。

「そうか、それは悪い事をしたな…」

サガはそっとサヤの肩を抱き寄せて、頬にキスをした。
サヤはほんのりと頬を染めたが、サガはそれに気付かず言葉を続けた。

「カミュは黄金聖闘士になる運命だったのだから、仕方ないとも言えるが、貴女には辛い思いをさせてしまった。聖域には多くの聖闘士とメイド達もいる。これからはきっと退屈な思いはしないから、安心しろ。このサガも、貴女の事を気にかけて大切にするつもりだ。それにしても、カミュの女か…。厄介だな」

サガに大切にするだなんて言われて、またサヤの胸は高鳴ったが、サヤは頬を染めつつサガに尋ねた。

「どうして?」
「カミュ、ミロ、アイオリアは、聖域でも人気スリートップだ。カミュに惚れてる女官も多い。サヤ、一人ずつ声をかけてたら大変だが…」
「そんなに…?まあ、カミュ、本当にモテるのね。なのに、私にばかり懐いて困ったものね…」

それは、サヤも同じだろう!!

とサガもカノンも思ったが、敢えて口にはしなかった。

「それで…サガとカノンはその人気の中に入ってないの…?」

サヤはおずおずと尋ねた。
口にしてしまうと、やはりこの双子の美しさに見惚れてしまって、我知らず鼓動が速くなる。
確かにカミュもミロもアイオリアも魅力的だけれども、この双子の美しさには全く及ばないとサヤは思う。
サガとカノンは顔を見合わせた。
サガは不思議そうな表情を浮かべていた。

「私は教皇だから関係ないと思うが?慕われはしてもそのような対象ではないと思う」
「まあ、俺は聖域でそういうのは面倒だし、年が年だからな」

その言葉にサヤは心底驚いた。

「ええっ!?貴方達ほど綺麗で素敵な男の人なんて見た事ないわ!それに、年だなんて…。そういえば、サガとカノンはいくつなの?」
「28歳だ」

サガがそう答えると、サヤはどきりとして頬を染めた。

「ヤダ…私の理想の年齢だわ…」

カノンはフッと笑った。

「お前、年上好みなんだな。お前なら大歓迎だな。それにしても綺麗で素敵か。お前に言われるのは嬉しいものだな。そういうお前はいくつなんだ?」
「24歳よ」
「一番魅力的な年齢だな。何年もカミュにべったりだともったいないぞ?いっそすぐにでも俺のものになるか?」

まさかそんな風にプロポーズされるだなんて思わなくて、カノンのからかうような表情すら様になっていて、サヤは耳まで赤くなった。

「カノン、いい加減にしろ。サヤが困っている。たちの悪い冗談は止めろ」

カノンは肩を竦めた。

「あながち冗談でもないけどな」

そうカノンが言うと、僅かにサガの表情が厳しくなった。
サヤは2人の間にまた火花が散っている雰囲気を感じて慌てた。
その時、先ほどのメイドが紅茶を持って部屋に入って来た。

「失礼致します。下着などは新しい物をお風呂場にお持ち致しました。私はバスローブを持っておりませんので、サガ様の物をお持ち致しましたが、サガ様、ご無礼でしょうか?」
「いや、構わん」
「お着替えをなさったら、お洋服はお洗濯させて頂きます。お洒落着洗いを致しますので、ご心配なさらないで下さい。こちらがお茶でございます」
「ありがとう。助かるわ」

サヤが微笑みかけると、メイドはまた頬を染めて慌ただしく仕度をしてすぐに下がって行った。
サヤは紅茶を飲みながら、面白そうにくすくすと笑った。

「やっぱり紅茶はフォションかマリアージュ・フレールに限るわね。美味しいわ。それにしても、あの子、本当にカミュの事が好きなのね。私、自分がそんなにカミュに似てるなんて思わなかったわ」
「知らぬは本人だけか。貴女はカミュによく似ている」
「そう?でも、少し残念だわ…。あの子、カミュの好みではないような気がするの。少し幼過ぎるというか…」

サヤは洗練された仕草で紅茶を飲みながら、さらっと言いのけた。
カノンはそれを聞いて溜息を吐いた。

カミュの理想の女はサヤ、お前だろうが!!
カミュが他の女に興味を示すはずがないって気付け!
このシスコンのブラコンが!!

サガはカノンの溜息を不思議そうに見つめ、サヤに視線を移した。

「幼いのは確かだが、よく働くし、気も利く。双児宮に配備したのは、私達とはかなり年の差があるから、私達が彼女の恋愛対象にはならないだろうとの配慮からだ。成長したら、カミュとも釣り合うようになるかも知れんな。あの恥ずかしがりさえ直ればな」
「そうね…確かに数年後が楽しみかも知れないわね。私もその頃結婚しようかしら」

その言葉に内心焦ったのはカノンだった。

あと数年後だなんて冗談じゃない!!
俺は30歳を超えるだろうが!!
今すぐにでも、手に入れたいというものを!!

「お前なあ、いつになったらブラコンから卒業出来るんだ?」

カノンは溜息混じりに呆れたように言った。

「あら、ブラコンのつもりはないわよ?ただカミュと一緒にいたいだけよ?」
「それが世間でいう所のブラコンだ。何なら俺がカミュから卒業させてやるが?」
「え…?それって…」
「そうだな、宝瓶宮ではなく、この双児宮に住むのはどうだ?」

それを聞いてサヤは真っ赤になった。

このまま私はカノンと同棲する事になるの?
婚約者として?
あれは本気のプロポーズなの?
いずれにせよ、サガとカノンの色気に毎日当てられてたら、心臓がもつかしら?

サガはカノンを軽く睨んでサヤの頭を優しく撫でた。

「私は教皇の間にいる事が多い。カノンと2人きりにさせる訳にはいかないな。当初の予定通り宝瓶宮に住むといい。私も双児宮にいるのなら、貴女をここに住まわせても一向に構わないが。いや…その…むしろ喜ばしい、がな…」

優しげに話していたサガが、最後の方はほとんど消え入るように言葉を濁らせて、ほんのりと頬を染めた。
頬を染めたサガの綺麗な横顔を見て、サヤにもそれが伝染していく。
優しく頭を撫でる手にすらときめいてドキドキする。

サガって神々しいだけじゃなくて、こんな表情もするのね…。
とても綺麗なのに、どこか可愛らしいような、愛しいような、この感情は何なのかしら?
ああ、サガもとても素敵でドキドキする…。

サヤはサガに見惚れながらサガの言葉を反芻した。

サガもここに住んで欲しいと言うの?
まだ男の人と一緒に住む心の準備なんて出来ていないのに…。

それでも…。
サガなら何故か安心な気がする…。
この神々しい人が疚しい事なんてするはずがないし、カノンを絶対に止めてくれる。
それに、サガが私と一緒にいたら嬉しいと言うなら…。
ああ、でも、カミュは…?

そんな風に心が揺れながら、魅入られたようにサガを見つめていると、カノンが咳払いをした。
サガは邪魔をされたような気持ちになって、内心少し不機嫌になった。
ただ、サヤを愛でるのがそんなに悪い事なのかと。

「サヤ、風呂が冷める前に入って来い」
「そ、そうね。じゃあ行って来るわ。どこがお風呂かしら?」
「そこのドアを開けて、廊下の右側だ。メイドに案内させる。おい、サヤを風呂場に案内しろ」
「かしこまりました、カノン様」

メイドは一礼をすると、サヤを連れて風呂場へと消えて行った。

サヤは、脱衣所に着くと注意深く服を脱いだ。
脱衣所は広々として、洗面台と棚があるだけの清潔感溢れる場所で、何種類ものバスソルトが置いてあった。
だからサガは花の香りがするのかしら、とサヤはふと思った。
そして、バスルームに入ると、サヤは本当に驚いた。
広々とした大理石の湯船は泳げそうなほど広く、湯の上には薔薇の花が散らされていた。
ふんわりと香る薔薇の香りを胸いっぱいに吸い込むとなんだかリラックスするような、セクシーな気分になるような気がして、サヤは身体を丁寧に洗って、風呂に入ると上機嫌にシャンソンを歌い始めた。

その歌声は、サガとカノンにも届いていた。
サガは微笑ましそうに聴いていたが、カノンはそのセクシーな歌声に、サヤの裸体まで想像しそうになって複雑な思いだった。

ったく、あんなセクシーな声で歌って男を誘っているのか!?
サガさえいなければ、今すぐにでも抱き締めに行きたいというのに!

段々と悶々とした気持ちになってカノンはタバコに火を点けた。
サガがまた嫌そうな顔をしたが、カノンは無視をした。
タバコでも吸っていないとやり過ごせない。
そんな時の事だった。
脱衣所からパタパタという急ぎ足の足音が聞こえて、サガとカノンはサヤに何かがあったのかと立ち上がろうとした。
しかし、部屋に姿を現したのはメイドで、2人はホッと安心して座り直そうとしたが、何故かメイドが顔を真っ赤に染めて酷くうろたえていて少し心配になった。

「どうした?何をうろたえているのだ?」
「す、すみません、サガ様。でも、でも、あのっ!」
「だから、落ち着け。ゆっくりでいいから話せ」
「カ、カノン様っ!そ、それが…ああっ!カミュ様のお姉様が…!」
「何っ!?サヤがどうしたっ!?」

今度こそサガとカノンは立ち上がって表情を険しくした。

この双児宮に危険などあり得んが、サヤの身に何かあったのか!?

メイドは慌てて言葉を付け加えた。

「いえ、違うんです!!お姉様の…サヤ様の…ラ、ランジェリーがあんなにセクシーだなんて思わなくて…その…恥ずかしくて…」

セクシーなランジェリーという言葉にサガは耳まで赤くして口許を覆って顔を背けた。

全くこの娘が何を動揺しているのかと思えば、ランジェリーだと…!?
ラ、ランジェリー!?
セ、セクシー…だと!?
一体どんな…サヤならきっと完璧に着こなして…。
きっと美しいに違いないあの身体に…。
いや、ダメだっ!!
私は何を考えているのだっ!!
私まで動揺してしまったではないかっ!!
いかん、落ち着け、サガ、落ち着くのだ!!
…ええい、全く落ち着けないではないかっ!!

サガが内心葛藤しながらますます赤くなっていた一方で、カノンもまた葛藤していた。

サヤのあの体型だ。
いつもエスプリの効いた服装をしているが、ランジェリーまでフランス製という事は…。
総レースの凝ったデザインで透けるようなタイプか?
でなければ、このメイドが小娘とはいえこんなに動揺するはずがない。
そんな下着をいつも身につけているなんて、男を誘っているのか!?
いつでも襲ってくれと言っているようなものではないか!!
ブラは何カップなんだ!?
裸よりもいっそ艶かしいではないか!!
いかん、サヤの下着姿が脳裏から離れない!!
このままでは、身体がっ!!

カノンはソファに深く座り、長い脚を組んで顔を背けてタバコを吸った。
メイドに、サヤの下着を見せろと言う事だって出来たが、そんな事をしたら、身体が言う事を聞かなくなって、困った事態になる。
今ですら自分を抑えるのに必死だというのに。

全く、このメイドが顔を真っ赤にするほどのランジェリーというのはどこまでセクシーなんだ!?

カノンは、また妄想しそうになって紅茶を飲みながら立て続けにタバコを吸った。
サガの前で醜態を晒すわけには絶対に行かない。

「お前はいいから洗濯をして来い。それから、コーヒーだ」
「は、はい。かしこまりました、カノン様」

メイドが下がって行って、サガはまだ動揺したまま冷めた紅茶を飲みながら、何とか心を落ち着けようとしていた。

「カノン、良からぬ事を考えてはいないな?」
「フッ…お前こそそんなに赤面して、良からぬ事を考えているのではないか?」
「なっ!?私はただ動揺して…!!女性がそのような…つまり、身嗜みにそこまでこだわるだなんて思いもしなかっただけだっ!」
「サヤの身体でも妄想したんじゃないか?」
「っ…!?け、決してそのような事はっ!!」
「いい身体をしてそうだからな」
「カノンっ!!いい加減にしないかっ!!」

サガは次々に言い当てられて焦りに焦っていた。
しかし、その一方で、カノンもサガをからかいでもしないと身体が火照って来そうで、必死に堪えていた。

チッ、俺も男子校生だなんて、絶対に認めないからなっ!!
相手がサヤだからだっ!!
他の女達を抱いて来ても、こんな気持ちになった事なんて一度もないからなっ!!

そうして2人はコーヒーが運ばれて来ると、しばらく無言でそれを冷めるほどにゆっくりと飲んでは、時折溜息を吐いていた。
お互いに何を妄想しているのか気になりながら…。

二杯目のコーヒーを飲んでいる時の事だった。

「えーと、誰か…誰かいないかしら?メイドさんは?」

脱衣所からサヤの困ったような声が聞こえて、サガとカノンはハッと顔を上げた。
メイドは丁度洗濯中で、呼んでも聞こえない様子で、サガは困ったような表情を浮かべた。

「私が様子を見に行くか。何やらサヤは困っているようだ」
「ならば俺も行く」

そうして2人で連れ立って、脱衣所の前で声をかけた。

「サヤ、どうした?何か困った事があるのならば手伝うが…」
「怪我でもしたか?ならば抱き上げて俺の部屋で手当てしてやるが?」
「カノンっ!!」
「えっ!?サガとカノンなの!?困ったわ…」

サヤは驚いた後に困り果てたように溜息を吐いた。

「そうだが…。何か不都合でも…?」
「えーと…。そうね…。あの子に言ったら傷付くかも知れないし…」
「あの子?あのメイドだな。ならば俺達が聞いてやるから言ってみろ。困っているのだろう?」

すると、しばらくの間の後に脱衣所の扉が細く開き、サヤは顔だけをドアから出してサガとカノンを見やった。
頬を染めて困り果てたような表情を浮かべている。
ドアの隙間から色白の肌が覗いていて、サガは頬を染め、カノンは動揺しながらもポーカーフェースで、それでも2人共サヤの姿に釘付けだった。

「あの…。ブラがキツくて苦しくて…。真新しいのになんだか悪いわ…。アンダーは丁度いいのに胸がこんなにはみ出て…」

サヤがチラリと自分の胸を見るように俯いた。
サヤは顔だけを出しているつもりだったのだろうが、サガとカノンは、ドアの隙間から見える、ブラジャーから完全に零れて盛り上がっている胸をばっちりと見てしまった。
サガは慌てて視線を外して口許を手で覆った。
カノンは凝視したままほんのりと頬を染めた。

まさか、こんなに着痩せしてるとは思わなかった…。
こんなに胸が大きく、男をそそるほど綺麗だなんて…!!

2人は同時にそう思った。
身体の一部が正直に反応しそうになって、2人は困り果てて、カノンも視線を外した。

「キツいなら無理しなければ良いだろう?サガのバスローブは厚手だ。そもそも湯上りに湯を吸い取るためのバスローブだ。上半身にブラを着けなくても問題ないだろ」

頬を染めて何も言えないサガに代わってカノンがそう言うと、サヤは少し思案した後に「そうするわ」と答えて扉を閉めた。
途端に2人はホッとして、足早にリビングに向かって部屋に入ると深々とソファに座った。
サガは、冷や汗なのか、薄っすらと汗を浮かべてまだ赤面していた。

「カ、カノン…。その…女性というものは、あのように無防備なものなのか…?」
「まあ、そういう仲になればもっと大胆だな。サヤにしてみれば、完全に隠したつもりだっただろうし、普通なんだろう。それに本当に困っていたしな」
「そ、そうか…。いや、しかし…見てはいけないものを見てしまったような…」
「いいじゃないか、サガ。眼福だったと思っておけ」
「くっ…確かに美しかったが…」

サガがほとんど頭を抱えるようにして、悶々としていると、リビングの扉が開いた。

「お待たせ。素敵なお風呂だったわ。サガのバスローブって流石大きいのね。足首まであるわ」

その声にサガとカノンは視線をやると、2人は驚き、サガはまた頬を染めて顔を背け、カノンは呆然としたように目がサヤの姿に釘付けだった。

バスローブが大き過ぎて、胸元は広く開いて、殆ど胸が見えそうなほど際どい所まで露わで、バスローブが肩から滑り落ちそうなほどだった。
色っぽい事この上ない。
袖からは指先だけが覗いているだけで、それがまた愛らしく、ほとんどマキシサイズのバスローブから、引き締まったふくらはぎが見え隠れする。

サヤは、コーヒーテーブルの上に置いてある冷めた紅茶に手を伸ばした。
丁度サガの目の前に胸の辺りが掠める形になって、俯いた拍子にローブがふわりと少しはだけ、豊満な胸の柔らかな曲線の一部がサガの目の前に晒され、サガは固まった。
そして、みるみるうちに赤くなって、サヤを邪魔しないようにしながらもソファから立ち上がってメイドを呼んだ。

「サガ様、御用は何でございますか?」
「サヤのためにティーポットごと紅茶をここに用意してくれ。冷たい水もな。それから私も風呂に入るから仕度を頼む。先に入っているから、タオルなどは少し遅れても構わん」
「かしこまりました」

サガは逃げるように足早に風呂場へと向かって行った。
メイドは不思議そうにその後ろ姿を見送った。

「サガ様があんなに動揺してらっしゃるのを初めて見ました…」

その言葉にカノンは苦笑いするしかなかった。
確かに今のサヤの姿は、眼福、いや、下手すると刺激的過ぎて、目の毒だ。

「深く考えるな、サガだってそういう時もある。お前はサガの言いつけ通りにしろ」
「あ!そうですね。行って参ります」

サヤはバスローブがはだけそうになる度にそれを直し、紅茶を飲んでいた。

…その仕草、男をどれだけ煽っているのか分かっているのか!?
…それとも、俺に抱かれるつもりか…?

カノンが柄にもなくドキドキとしていると、ティーポットと水が届けられた。

「あ、カノンの分は私が入れるわね」

そうサヤは言って、俯き加減にティーカップに紅茶を注いだ。
その拍子にまたバスローブが僅かにはだけ、胸の谷間が見え隠れする。
タバコを吸いながら紅茶を飲んで気を紛らわせていたが、何度かサヤが紅茶を入れる度に欲情を煽られて、カノンはもう限界だった。

カノンは立ち上がり、サヤの隣りに座ると、サヤを抱きすくめて欲求のままに激しいキスをし始めた。

「んっ、カノ…ンっ!何、故…」

サヤは困ったように、そして頬を染めて首を背けようとした。
カノンは、吐息がかかる距離で囁いた。

「無防備なお前が悪い」

サヤはカノンのその艶っぽい表情に見惚れて固まってしまった。
そして、その隙を突かれて、また息もつかせぬほど深く唇を重ねられて、まだ少し酔いの残った身体には力が入らなくて…例え素面でもカノンの力に敵うはずはないけれども、サヤはなすがままにカノンのキスを受け入れるしかなかった。

無防備…?
何が…?
私が悪いの…?
どうして…?

サヤはカノンとの初めてのキスを思い出していた。
あのキスは、とても優しかった。
なのに、それとは比べ物にならない位、荒々しくて、それでも気持ちよくて身体がじんと痺れるような感覚がして、恐怖した。

私、確かにカノンに惹かれてる。
でも、こんな形で身体を奪われてしまうの…?
サガへの気持ちもはっきりしないのに?
カミュともっと過ごしたいのに?
まだまだ早いわ、早すぎるわ…。

キスをされながらゆっくりと押し倒されて、カノンの手が鎖骨から肩までゆっくりと滑って行く。
ぞくぞくとした感覚と共にバスローブがはだけるのを感じて、サヤは、祈るようにサガとカミュの名を心の中で呼んでいた。

お願い、サガ、カミュ、助けて…。
カノンに最後まで抱かれてしまう前に…。

⇒Next Act

2014.7.30 haruka


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