双子の受難 -前編-
一難去ってまた一難というシエスタも、もう終わりを告げる頃、カミュはようやくすやすやと眠る姉に添い寝をして、うとうととしていた。
広々としたベッドで、姉のか細い身体をこうして抱きしめて眠るのは初めてだった。
普通の男性よりはるかに体格の良いカミュにとって、姉のベッドは小さ過ぎて落ち着かなかった。
流石、サガのベッドだ。
身長188cmであの筋肉質な身体では普通のベッドで事足りる訳がない。
特注のキングサイズのベッドだ。
おそらくカノンもそうだろう。
自分のベッドだって似たようなものだ。
添い寝には十分な広さだ。
早く宝瓶宮に連れ帰りたいものだ…。
そして、サヤと穏やかな日々を過ごしたい。
あのメイドには申し訳ないが…。
私にとって、今、一番大切なのは、姉なのだ。
次こそは、宝瓶宮でシエスタを…。
カミュは少し、また浅い眠りに落ちて行った。
ぼんやりとした夢の中で、姉がお気に入りの紅茶を入れて、テラスでスイーツを食べながら、その眩しい笑顔をカミュに向けていた。
陽は燦々と照り、そよ風の吹くテラスでの紅茶は、また格別だった。
「私、聖域に住んで、本当に良かった」
「そうか。私もサヤと一緒にいられて嬉しい」
「私もカミュと一緒にいられて嬉しいわ。あ、でもね、嬉しい理由は他にもあるの」
「他の理由…?」
聖域で他の理由というのが思いつかない。
アテナとのアフタヌーンティーの事だろうか。
「私、結婚したい人、見つけてしまったの」
「結婚、だと!?」
十二宮では、目を光らせて、姉に近寄らないように最大限に注意を払っていたはずだ。
一体誰なんだ!?
「カミュ、そんな顔をしないの。カミュのお兄さんになるかも知れないのよ?」
「ダメだ。サヤにはまだ早すぎる!」
「そんな事、ないわよ。私も結婚適齢期だし」
考えてみれば、姉は24歳だ。
確かに結婚してもおかしくはない。
いや、しかし…。
急な話過ぎる。
まだ姉と再会して1年も経っていない。
私は殊更冷たい声で姉に尋ねた。
「どこのどいつだ。私が認める男しか許さん」
カミュが認めている聖闘士は、黄金聖闘士には何人もいる。
しかし、カミュの脳内からは、今はそれがすっかり抜け落ちていた。
「ふふっ、黄金聖闘士よ。カミュのよく知ってる…」
嫌だ、聞きたくない、それ以上言わないでくれ!!
そう言おうとした瞬間に、カミュははっきりと目が覚めた。
サヤは、まだすやすやとカミュの腕の中で眠っていて、カミュは心底安心した。
「ただの夢か…。聖域に連れて来たから、こんな夢を見てしまったのか。サヤをアテネに連れ帰るか」
もうとっくにシエスタの時間は過ぎている。
例え姉が二日酔いになっても、自分一人で面倒は見られるから大丈夫だ。
「サヤ、サヤ、起きられるか?とっくにシエスタの時間は過ぎているぞ」
カミュが姉の肩をそっと揺すると、姉はうーん、と唸りながら、目を覚ました。
まだ吐息がアルコールの香りがするが、サヤの部屋にテレポーテーションすればすぐに連れ帰れる。
双児宮、金牛宮、白羊宮を抜ければの話だが。
サヤはあくびをした後に、カミュの姿を認めると、ふわりと笑った。
「カミュ、おはよう」
「もうすぐ陽が落ちる時間帯だがな。おはよう、サヤ」
そう言って触れるだけのキスをして、カミュはサヤの頭をそっと撫でた。
寝汗をかいていたのか、しっとりと濡れている。
メイクも落ちかけていて、せっかくの洗練された服も多くの皺を付けている。
まあ、それでもサヤは綺麗だから、白羊宮まで歩いて行くのは問題ないが。
「サヤ、アテネの部屋に帰るぞ」
そうカミュが言うと、サヤは目をこすりながら、自分の姿を見て青ざめて、ベッドから起き上がると、バッグの中から手鏡を取り出して、きゃあっ!と声を上げた。
「カミュー。服も皺だらけでアルコールの臭いがするし、メイクもぐちゃぐちゃ。髪も寝汗でぐっしょり。こんな姿で外に出られる訳ないじゃない。どうしよう。恥ずかしいわ…」
「しかし、仕方がない。私の宝瓶宮まで双児宮からはかなり遠いし、身仕度を整えようにも他に手立てはない。宝瓶宮までの道のりには、多くの黄金聖闘士がいるからな」
「それは絶対、嫌!」
カミュは宝瓶宮で姉と過ごしたかっただけに、ほんの少し傷付いた。
姉が外を歩けないとなれば、双児宮で世話になるしかない。
サガとカノンには別の宮を守護してもらって、姉の世話はここでするしか方法はなさそうだ。
カミュは溜息を吐き、リビングにいるサガに相談をする事にした。
「サヤ、サガに相談をしてくるから待っててくれ」
サヤはまだ手鏡を見て青ざめていたが、カミュの言葉に頷いた。
それを確認して、カミュは双児宮のリビングへと入って行った。
リビングでは、サガとカノンがコーヒーを飲みながら寛いでいた。
「カミュ、どうした?ミロの口止めの事は心配ない。私とカノンでキスの事は口外無用だときつく申し付けて来た」
「ああ、すまない、恩に着る。それから頼みにくい事があるのだが…」
双児宮を空けてくれ、と言うのは流石に躊躇われて、カミュは言葉を探すように口を噤んだ。
カノンはニヤリと笑った。
「サヤが二日酔いで帰れないのか?泊まって行けばいい。俺はサガと同じベッドで寝るのは御免だから、当然俺がサヤに添い寝だな」
「カノンっ!!いい加減にしろっ!!」
「ダメだ!!サヤは渡さん!!」
「フッ…冗談の通じない奴等だな」
サガは溜息を吐いた。
「お前の冗談は冗談に聞こえないから、止めろ。カミュ、サヤが帰れない件についてか?」
「ああ」
サガは思案するように目を伏せて考えていた。
「サヤをアテネに帰すのが一番良いのだろうが、アテナがサヤの存在に気付いた。アテナがサヤに会いたがっている。アテナに拝謁するまで、聖域から出す訳には行かなくなった」
カミュは驚いて目を瞠った。
「何故、アテナが…!?」
カノンも溜息を吐いて、サガの代わりに答えた。
「まあ…俺達、お前も含めての小宇宙のせいだな。ギャラクシアンエクスプロージョンとオーロラエクスキューションがぶつかり合う所だったんだ。アテナが異変に気付かない筈がない。それから、俺達は、獅子宮までミロを追いかける羽目になった。アイオリアとアイオロスが助太刀してくれて、やっとミロを捕まえた。だが、サヤの存在は知れてしまった。キスの事までは口走っていないから安心しろ。しかし、巨蟹宮にいたアフロディーテからお前の姉の存在の噂はアテナ神殿にまで届いてしまった。お前の姉だからと、氷河がサヤに会いたがっている。もちろんアテナもな」
カミュは、ふらふらとよろけるようにソファに座り、頭を抱えた。
「私がオーロラエクスキューションを放とうとしたばかりに…」
「過ぎた事だ、カミュ、そう落ち込むな。元はと言えば、私達の監督不行き届きのせいだ。すまなかった」
サガが静かに答えてカミュの頭をそっと撫でた。
「カミュ、それで、何か私に頼みたい事でもあるのか?」
「あ、ああ…」
双児宮を自分に預けてくれ、とは頼みにくくてカミュはまた口を噤んだ。
サガは見透かしたようにくすりと笑った。
「サヤの泊まる所についてだな?」
「ああ、そうだ」
「ならば、宝瓶宮か魔鈴やシャイナの所に泊まれば良いではないか」
「そこが問題なのだ…。サヤがメイクや髪や服の皺を気にして、十二宮を通るのを嫌がっている。宝瓶宮に連れて行きたいのはやまやまだが、ああ見えてサヤは頑固だからな…。私も困っている」
「つまり、双児宮から出たがらないと?」
「その通りだ、サガ」
サガは、コーヒーを一口飲んで、思案していた。
「まさか青銅だけでなく、サヤの事まで考えなくてはならんとはな」
「氷河達の事…?何の事だ」
「アテナがそうやすやすと星矢達を帰す訳がなかろう。星矢達が泊まるのは、十二宮のなるべく上の宮がいい。お前とシュラとアイオロスを当てにしていたが、サヤが聖域を出られないのは誤算だった」
「氷河達…」
手塩にかけて何年もかけて育て上げた氷河の事を思い浮かべると、心が揺らぐ。
氷河が自分の助けを必要としているのならば、そばにいてやりたい。
その一方で、サヤを放っておくわけには行かない。
誰よりも大切な姉なのだから。
しかし、氷河が…。
「お前、たまには弟子の面倒を見てやれ。滅多に聖域には来ないんだ。サヤにはしょっちゅう会っているだろ?今日も氷河を放ったらかして双児宮まで来てどうするつもりだ?」
「うっ、それは…。氷河を宝瓶宮に泊めてやりたいのは確かだ。久々に積もる話もしたい。しかし、サヤがあの状態では…」
カノンの言葉にまた心が揺らぐ。
サガは微笑んで、カミュの肩をぽんぽんと叩いた。
「サヤの事は心配するな。このサガが守り抜く。お前は氷河のそばにいてやれ」
カミュの心はまだ揺れていたが、ようやく頷いた。
確かに氷河にはしょっちゅう会える訳ではないのだから。
それに、カミュはサガを絶対的に信用している。
アテナのような清い心を持った男だと認めている。
例えカノンも双児宮にいたとしても、サガがいる限り安心だ。
その時、リビングの扉がノックされた。
「どうした?入ってもいいぞ」
サガが静かな声で呼びかけると、扉が少し開き、サヤは顔だけを覗かせて、恥ずかしそうに頬を染めていた。
サヤはメイクをすっかり落としていた。
カノンは口笛を吹き、ニヤリと笑った。
「お前、メイク落としても相変わらず綺麗だな。いや…メイクをしていないと、随分と可愛らしいではないか。なあ、サガ?」
「確かにな。化粧は女性の身だしなみなのだろうが、私は自然体の方が好ましいと思う。それにしても、美しいな」
サヤは2人の賛辞に固まり、そして更に頬を染めた。
カミュはまた一つ自分の秘密を知られてしまって、頭を抱えたくなった。
姉は、ノーメイクで部屋着で寛いでいる時が一番美しいのだ。
「そのまま宝瓶宮へ行ってはどうだ?」
サガが尋ねると、サヤは首を横に振った。
「それだけは嫌。まだ完全にお酒が抜けていないし、服も皺だらけよ。寝汗もかいたから髪もぐしゃぐしゃ。それに、すっぴんだもの」
「ほう…それなら、服は洗濯をして、風呂にでも入ってくればいい。洗濯はメイドにやらせるから安心しろ」
「えっ!メイドさんがいるの?」
「まあな」
カノンの言葉にサヤの表情が明るくなった。
サガもサヤに微笑みかけた。
「カノンの言う通りだな。今日はもう遅い。泊まって行けばいい。その間に服も乾くし、風呂に入ってさっぱりして眠れる。正直、宝瓶宮まではかなり遠いからな。酒が抜けるまではここにいた方がいい」
サヤは少し思案して曖昧に頷いた。
「お風呂が借りられるのは嬉しいけれど…アテネの部屋に帰ろうと思うの」
サガは困ったようにサヤを見つめた。
「ところがそういう訳にも行かなくてな。アテナがお前に会いたがっている。アテナに拝謁するまでは、聖域に留まってもらわねばならん。今日はお前の部屋に帰す訳には行かなくなった。すまない」
「えっ!」
サヤは驚いて目を瞠った。
それじゃあ、私、双児宮に泊まるの…?
サガとカノンのいるこの双児宮に…?
サヤは焦ったようにカミュを見やった。
「カミュも一緒?」
「しばらくはな。しかし、共に泊まる訳には行かなくなった」
「え…?」
カミュの言葉にサヤは愕然とした。
この美し過ぎて直視出来ない双子と私だけでこの双児宮に泊まるというの!?
散々今日振り回されたというのに!?
そんなの、これ以上、無理!
「ねえ、カミュ、どうして?」
「私は弟子の面倒を見なければならなくなった。それも私の務めだからな…」
「弟子…。氷河の事?」
「ああ、そうだ」
そういえば、カミュは今日は氷河にかかりきりだった、とサヤは思い出した。
カミュの事だから、弟子も弟のように可愛がって、大切にしているはず。
カミュと氷河の再会のお邪魔はいけないわ…。
サヤはカミュに微笑みかけた。
「カミュ、氷河の所へ戻りなさい」
「いや、しかし…」
「いいから、早く」
「くっ…」
カミュは、姉がここでシャワーを使う事を危惧していた。
カノンがちょっかいを出さないか。
それでサガが怒り狂わないか。
いや、自分自身が一番怒り狂うから、またサガに迷惑をかけてしまうだろうが…。
カミュは言い淀んで頷いた。
サガはそれを見て安心したように微笑んだ。
「サヤの面倒は、メイドに任せるから安心しろ、カミュ。それでも心配か?」
「いや、サガの事は信頼している、問題ない」
「ほら、氷河を待たせるな。俺達が守護する双児宮だ。今、十二宮で最も安全な所だ。お前は宝瓶宮に氷河を泊めてやれ」
最も危険な人物もいるがな、とカミュはじっとカノンを見つめた。
カノンは肩を竦めた。
「サガのギャラクシアンエクスプロージョンを食らうのは御免だぜ。安心しろ。ただ泊めるだけだ」
カミュはまだ疑うような視線をカノンに向けていたが、サガがぽんぽんとカミュの肩を叩いた。
「お前の心配も分かるが、このサガがいる。信じて欲しい。カノンも聖域では絶対に無茶をしないだろう?それよりサヤ、いい加減、部屋に入ったらどうだ?」
サヤは急に矛先を向けられて、目を瞬かせて、ほんのりと頬を染めた。
「だって服が…」
「酔いつぶれて気を失って、サガに抱かれてここまで来たのに今更だ」
そう言われて、サヤは記憶の糸を辿り、そして、誰かの情熱的なキスの感触を思い出した。
少し強引で、深く唇を重ねて食むような…。
そして、何か飲まされていたような…?
記憶違いかしら…?
だって、カノンのキスとは違うし、サガは絶対にそういう事はしないように見えるし。
この、神々しい人が、あんな情熱的なキスなんて…。
でも…他にいないのよね。
サガじゃなかったら、もしかして、もしかしてなんだけど、カミュ!?
サヤは記憶を必死に辿っても思い出せなくて、青ざめた。
それを見て、サガは心配そうな表情で立ち上がり、ドアを開けて、サヤの手を取ってリビングへと連れて行った。
サヤは頑なに拒もうとしたが、サガの神々しい雰囲気に呑まれておとなしく従った。
カミュがサヤに席を譲り、細身のサヤはカミュとサガの間に座った。
「まあ、確かにお前なら、その服は許せんだろうな。明日の朝までには何とかさせるから安心しろ」
「え、ええ、ありがとう。それにしても…」
「何だ、サヤ。真っ赤になって目など泳がせて」
カノンに指摘されてサヤはますます頬をそめた。
だって、キスの事なんてカノンに聞けないじゃない!!
でも、あれは夢じゃなかったと思う…。
カミュってば、私相手にあんな情熱的なキスをする子だったの!?
ああいうのは彼女にしてあげなさい!!
サヤはカミュを諭す事にした。
「ねぇ、カミュ。ああいう情熱的なキスはガールフレンドにしてあげなさい。口移しのような気もしたけど、あんなに情熱的なのは実の姉にはダメよ?」
コーヒーを飲みかけていた、サガとカノンは、思わず吹き出しそうになってむせた。
ひとしきり咳をすると、サガはほんのりと頬を染めて、口許を手で覆った。
まさか、誰とまでは覚えていなくても記憶にあるとは…。
しかも、情熱的とは…!
改めて指摘されると恥ずかしいではないか!
まあ、カミュだと誤解しているようだが…。
それはそれで、大問題だ。
カミュは慌てふためき、すぐに否定した。
「私は口移しなぞしていない!それに、私にキスをして来たのはサヤの方だ!!それも、随分と情熱的にな!私は何もしていないぞ!!」
「ええっ!?……覚えてない…」
サヤは頭を抱えて、がっくりとうな垂れた。
「まさか、弟にキスしたなんて、どうしましょう…。部屋で何度もキスはしてるけど、そんなの初めて…。酔ったらキス魔って本当だったのね…」
「酔ったらキス魔…だと!?」
「カミュに部屋で何度も…」
カミュは目を見開き、サガはまた口許を押さえて、また頬を染めた。
「サガ、勘違いするな。家族のキスだ。ノーカウントのな」
「あ、ああ」
「そうよ。子ども同士のキスみたいなものよ」
「そ、そうなのか?」
「ええ」
カミュは今度こそ頭を抱えてうな垂れた。
部屋での姉とのキスが暴露されて、その上、姉がキス魔と聞かされて、もうどうしてよいか分からない。
カノンはそれを面白そうに眺めていた。
まあ、俺なら酔わせなくてもサヤの唇くらいは奪えるから、酔わせる必要はないがな。
実際、既に恋人同士のようなキスもしているしな。
サガは困ったように笑い、サヤの髪の毛を撫でながら言った。
「とにかく、聖域での深酒は禁止だな。パーティで嗜む程度なら構わんが、あのように倒れられたら困るし、キス魔なら尚更だ」
「ううっ、ごめんなさい…。じゃあ、あの口移しは、もしかしてサガだったの?」
言い当てられて、サガはみるみるうちに頬を染めて、口許を押さえた。
サヤの頬も真っ赤に染まっている。
この美形にあんなに情熱的なキスをされていたなんて思ったら、恥ずかしいし、胸がドキドキと高鳴って、本当に困る。
それでも、介抱してくれたサガに感謝しなければと、サヤは何とかサガに話しかけた。
「やっぱりサガだったのね、ありがとう。私、急性アルコール中毒で死ぬかも知れなかったのね…。でも、あんな深酒は初めてだわ…。だから、心配しないで?」
「そ、そうか、ならば今後は気を付けるんだな」
「ええ」
カノンは、これ以上、サヤが何か思い出して自分とのキスなどを口走ったなら、カミュが激怒すると思い、カミュを見やった。
「それよりも、いい加減、着替えて聖衣を纏ってアテナ神殿へ行ったらどうだ?氷河が待っているんだろ?」
「そうだな…」
「聖衣?」
カミュは心がまだ揺れている様子だったが、サヤは目を輝かせて聞いた。
サガがふわりと笑ってその問いに答えた。
「聖闘士が纏う、鎧の事を聖衣と呼ぶ。私達黄金聖闘士の聖衣は黄金に輝き、身体の殆どを守る最強の聖衣だ。防御力だけでなく攻撃力も上がる」
「そうなの?すごいわ!カミュの聖衣、見てみたいわ!」
サヤを除く三人は顔を見合わせた。
全く何も覚えていないのだな…。
「分かった、サヤ、アテナ神殿へ向かわねばならんし、アクエリアスの聖衣をここに置いて行く訳にもいかん。着替えてくるから待っててくれ」
カミュはサヤの頬にキスをすると、部屋を出て行った。
そのやり取りを見ていて、サガとカノンは顔を見合わせて笑ってしまった。
「どうして笑うの?」
「いや、つくづく仲の良い姉弟だと思ってな」
「お前なあ…。弟離れ出来ないのか?まだキスをするなんて重症だぞ?」
「 あら、あと数年以内には卒業するわよ。多分、結婚するし」
「そうか…。っ!?結婚!?そんな相手がもういるのか!?」
カノンは声を荒げ、サガも何だか不機嫌になった。
俺とあんなキスまでしたのに、男がもういるのか!?
だから、キスも上手かったのか!?
このカノンを欺くとは…!!
サヤは2人の迫力に押されながら答えた。
「もう、カノンもサガもカミュみたいな事を言わないで?まだ相手はいないわ。いつかはそんな相手が出来るとは思うけど、今はカミュが大切なの」
サガとカノンはホッとして、またコーヒーを飲んだ。
それから少しも経たずにドアがノックされて、聖衣を纏ったカミュが現れた。
サヤは目を見開き、そしてうっとりとカミュを見つめた。
「ヤダ、カミュ。聖衣、とても似合うじゃない。マントまで着けて、本当にカッコいいわ!弟なのに惚れちゃいそう」
それを聞いた三人はまた動揺したが、サヤはそれに気づかず立ち上がり、カミュを抱き締めた。
「聖域にいれば、もっとカミュの聖衣姿が見られるのね!」
カミュもそっとサヤを抱き締めた。
カノンはくつくつと笑った。
「そんなに聖衣姿が見たかったら、俺もジェミニの聖衣を纏ってやってもいいぜ?」
「カノン、止めろ。それとも一晩中、外で双児宮の守護でもするか?」
「今日は非番だから御免だな」
「だったらおとなしくしてろ。サヤ、十二宮を抜けるまで、黄金聖衣を纏った黄金聖闘士に何人も会うだろうから、そのうち見慣れる」
「まあ、そうなの?楽しみだわ!じゃあ、カミュ、行ってらっしゃい。オー・ルヴォワール!」
サヤがカミュにもう一度キスをすると、カミュは後ろ髪を引かれる思いで踵を返した。
サヤはカミュのマントが翻る姿に見惚れていた。
この後、超絶美形の双子と三人だけで過ごさなければならない事などすっかり忘れて…。
そして、サガもカノンも、意中の女性を泊める事を甘く考えていた…。
⇒Next Act.
2014.7.26 haruka
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