アンタレス


平和な世界になって、アテナは城戸沙織としてグラード財団の総帥を兼任するため日本に留まる事も多くなった。
当然、休みを挟みながらも中高一貫の女子校へ通うようになり、そこである先輩と仲良くなって、その先輩、由良は頻繁に城戸邸へ出入りするようになった。
由良は、高校2年生で成績が優秀なため、沙織が休校している間の家庭教師も務めていた。

沙織はアテナという立場上、常に黄金聖闘士が2人付き添い、交代で護衛を務めていた。
由良は、中でもミロが来るのをいつも心待ちにしていた。

そして、ミロとカミュの護衛の順が回って来た。
それを沙織から聞いた由良は、大喜びで城戸邸へ向かった。

「由良お姉様!お待ちしておりました。さあ、私の部屋でお茶でもしながらピアノでも弾きましょう?」
「そうだね。あれ?ミロは?」
「ふふっ、お姉様は本当にミロが好きなのね」
「ミロが好きなのかな?ミロの声が好きと言うか…」

そう言って、由良はほんのりと頬を染めた。
その時、ミロとカミュが部屋に入って来た。
ミロは由良の姿を見ると、軽く溜息を吐いて由良に近寄ると軽く頭を小突いた。

「またこのような髪の色をして。アテナのように、素のままの髪の色に出来んのか。化粧もカラーコンタクトもそうだ。まだ17なのに背伸びし過ぎではないか?」
「だって、カミュみたいな髪の色に憧れるんだもん。そのために3Dグラデーションを入れて、外人っぽくしてるの!」
「何だ、お前、カミュに惚れているのか?」

ミロの声を聞いているうちに、段々と由良の頬が染まって行った。
それをカミュは完全に勘違いをした。

「私に惚れている、だと…!?」

カミュは困ったように目を逸らした。
その頬はほんのりと染まっていた。
ミロは、てっきり由良が自分に懐いているとばかり思っていたので、内心不機嫌なものの、それを表には出さなかった。
由良は慌てふためいて、肯定も否定も出来ずに、ただ頬を染めていた。

すると、段々とミロとカミュの間に不穏な空気のようなものが流れ出して、由良は、ミロの袖をくいと引いた。

「ねえねえ、いつものやって?」
「いつものか…。仕方がないな」

そう言って、ミロは由良の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「見せてもらおうか!優等生の由良の性能とやらを!!」
「きゃああ!!私、沙織の家庭教師頑張る!頑張れる!もう一回言って!」
「冗談ではない!これが若さか…」
「その角度から来る!?いやーん、素敵素敵!!」

由良は、某ロボットアニメの覆面ヒールの大ファンだった。
彼の声にそっくりのミロの虜になって、会うたびに、彼の台詞をねだる。
ミロもカンペを渡された時は何事かと呆れたが、最近は由良の反応を見て楽しんでいる。

カミュは、困ったように笑った。

「アテナ。今日は家庭教師の都合は?」
「では、1時間だけ見てもらうわ。お姉様、いいかしら?」
「もちろん!」

ミロに発破をかけられて、由良は最高にテンションが上がっていた。

「では、私達は席を外すとしよう」
「1時間だけだからね?ね?また戻って来てね?」

由良がミロとカミュを…特にミロを見つめると、ミロは目を伏せてフッと笑った。

「必ず帰って来るさ。私は男だからな。勝利の栄光を君に…」
「来たーーー!!!待ってるよ、ミロ!」

カミュは由良のテンションに苦笑いしつつ、ミロは満足げに口許を綻ばせて部屋を出て行った。

「お姉様は、本当にミロが好きなのね!」

沙織はきらきらと目を輝かせて由良の手を取った。

「だって、だって、あの声が好きなんだもん。あんな声、毎日聞けたら幸せだなー」
「お姉様、それって、ミロと結婚したいって聞こえるわよ?」
「け、結婚!?いやいや、まだ私は高校生だし」
「あら、お姉様は17歳だからもう結婚出来るわ。何なら聖域で私が直々に…」
「まだ、心の準備が…!それに、声が好きだからなんて悪いし…」
「でも、ミロが来ると、お姉様とても嬉しそうだわ」
「それは、ミロが私の遊びに付き合ってくれるからであって…」
「もう、お姉様ったら煮えきらないのね!ミロともっとお話した方がいいわ」
「え、えーと…とりあえず、勉強しようか」


部屋を出て行ったミロとカミュは、リビングで寛いでいた。

「それにしても、由良は何故お前が話すとあんなに大喜びするんだ?」
「俺にもよく分からんが、誰か好きな男に俺の声が似ているそうだ」
「好きな男か…。お前が由良の事を何も思わないのなら、真似を続けるのも良いだろうが、このままでいいのか?お前はずっとその男の代わりだぞ?由良には新しい出会いが必要だと思う。何なら私がその役割を買って出てもいい」

カミュの表情はとても真剣だった。
カミュ自身、師匠だったせいか由良にはとても好意的だし、常々妹のように可愛がっている。
それに、由良がカミュの髪の色を真似ているという事が、カミュはとても嬉しかった。

カミュの告白を聞いたミロは驚き、由良がカミュと付き合う様子を想像して初めて、由良を誰にも渡したくないという気持ちに気付いた。
あの少女を喜ばせられるのは自分だけだ、と。

「好きな男に声が似ているだけだ。俺は俺だ。真似をするのも由良に喜んで欲しいからだ。それは俺にしか出来ない。由良は誰にも渡さん。俺だけが由良を喜ばせ、愛でていいんだ」

カミュは少し寂しそうにフッと笑った。

「お前の気持ちはよく分かった。しかし、もし由良がお前を選ばなかったら、このカミュが貰い受ける」
「笑止!必ず由良を射止める」

それからは、話題を変えてアテナの護衛のスケジュールについて話しているうちに、アテナから通信が入った。
アテナが席を外すから、ミロだけ由良の下へ行くように、と。
ミロとカミュの間に緊張が走った。
が、カミュは微笑んで、ミロに「行って来い」と笑顔で送り出した。
ミロは真剣な表情で頷き、沙織の勉強部屋に向かった。
「アテナ、私を導いてくれ…」と心の中で呟きながら…。

ミロは扉をノックして、部屋に入った。

「約束通り戻って来たぞ」
「あ!ミロ!カミュは?」
「アテナとスケジュールの調整中だ」
「そっかぁ」

ミロは、またきらきらと期待するような視線を受けて、深い溜息を吐いた。

「私もよくよく運のない男だな」
「きゃー!それも好きなの!」

ミロとしては、自然に出て来た言葉なのだが、そんなに反応されるとは思わず、よくよく考えたらかつて渡されたカンペに書かれていた言葉だと気付いた。

「認めたくないものだな…。若さゆえの過ちというものを…」
「名言、来たーーー!」
「若さゆえに、自分の言葉で気持ちを伝えられないとはな」
「え…?」

由良は、虚を突かれたように言葉を失った。

「お前が好きなのは、このミロの声だけか?それとも俺自身か?」
「えっと…」

言葉を濁す由良にミロは苛立った。

「もし、カミュが俺と同じ声だったら、お前はカミュを選んだのかっ!?」
「そんな事ないよっ!カミュはこんなお遊びに付き合ってくれないし、ミロの明るさとノリの良さと、それから、えっと…か、カッコいいから…だもん。そうやって、熱い所も好きなんだもん…」

ほとんど消え入りそうな声で由良は答えた。

「それから、やっぱりミロだからミロの声が好き…」

それを聞いて、ミロは弾けるように由良に駆け寄りキツく抱きしめた。

「その言葉が聞きたかった…!チャンスは最大限に生かす、それが私の主義だ」
「えっ!?その台詞も…」
「少し黙ってろ。お前が好きだ。お前を喜ばせるのは俺だけでいい。この声が好きなら何度でも言ってやる。由良、俺のものになれ。お前のアンタレス、俺がもらった!!」

由良は、赤面して固まり、しばらくしてこくんと頷いた。

その報告を聞いたアテナは大喜びをして、ミロとの結婚の根回しをいそいそと始めたのだった。
由良はまだ結婚は早いと拒否していたが、その日からミロとの付き合いが始まった。

アテナの祝福で婚儀が執り行われる日も近かった。


Fin…

2014.8.10



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