01. 出会い


貴方が例え闇に堕ちようとも、私は貴方を愛していました。
貴方が苦しんでいる事を知っていたから…。

今でも、貴方を愛しています。
恋しくてたまりません。
優しくて、心までその姿と同じくらい美しい、たった一人、私が本気で恋をした、サガ…。




私が初めてサガに出会ったのは、まだ私もサガも15歳の頃だった。
次期教皇候補筆頭の聖闘士と聞いて、みんなに慕われていたサガは、いつもみんなの輪の中心にいて、気弱な私はいつも遠巻きにサガを見つめていた。

綺麗で優しい人だな、と思って、あんな人が教皇様になったら、どんなに素敵だろうと、憧れていた。

アイオロスも聖域の集落を訪れては、男の子相手に遊んであげたりして、子供の人気者だった。

2人とも、集落の人々に愛されていたけれど、私は何故かサガに心を惹かれながらも、恐れ多い感じがして近寄れなかった。
サガに屈託なく話しかけられる人達がとても羨ましかった。

そんな私に転機が訪れるなんてその時は思ってもみなかった。




私は聖域の集落を訪れては、人々と触れ合い、アテナの降臨を待ち望み、人々にそれを告げては勇気付け、共に祝福をしていた。
子供から年寄りまで皆、数百年ぶりのアテナの降臨を待ち望み、そして、私は皆に囲まれていた。
これも年上の黄金聖闘士の役割だ。

ある時から私は、皆の輪の中に入らず、寂しそうに私を見つめる少女がいる事に気付いた。
初めのうちは、恥ずかしがり屋なのだろうと思っただけだった。
しかし、段々と目に入るたびに、その少女の瞳に私に対する憧憬が浮かんでいる事に気付いて、私らしくもなくその少女の事をいつも目で追ってしまうようになった。
目が合うと、恥ずかしそうにすっと逸らされてしまう。
私が視線を外すと、私をじっと見つめる気配を感じる。
いつかその瞳を真っ直ぐに見つめながら話をしてみたい。

今思えば、あの頃から私は彼女に惹かれていた。
そして、彼女と親しくなる機会は間もなく訪れるのだった。




身寄りのない私は、1人で食材などを運んだり、井戸から水を汲んだり、一日の多くを家事に費やしていた。
母は聖域のギリシャ人、父は行方不明の日本人という事で、母も私も冷遇されながらこの聖域で育って来た。
母はそれに耐え切れなかったのか、精神と身体を病んで早死にしてしまった。
そんな私を不憫に思って支えてくれる人達もいる。
でも、私は孤独だった。
サガを見つめている時が、私の孤独を忘れられるひと時だった。

その日も水を汲みに行っていた時、珍しくサガが1人、花畑で憂いを帯びた表情で遠くを見つめていた。
私は水桶を持ったまま、サガに見惚れていた。
その時の事だった。
サガが私を険しい顔で見るや否や、「危ない!」と叫んで、驚くほどの速さで近寄ると、私を抱きかかえて遠くへ後ずさった。
何が起きたのか分からないで混乱している私の前で、サガは手刀を振るい、花が散ると共に分断された毒蛇が散るのが見えて、私は余りの恐ろしさに思わずサガにしがみついた。

「大丈夫だ、もう心配ない。怖がらせてすまなかった」
「ううん、助けてくれてありがとう」

私は、憧れていたサガとこんな形で話す事が出来るなんて思いもしなくて、ドキドキと胸が高鳴っていた。
サガは優しく私の頭を撫でて、困ったような表情を浮かべた。

「せっかく水を汲んで来たのに悪かった」
「サガ様こそ、びしょ濡れじゃない」
「すぐに乾くから問題ない。それより、貴女の名前は?」
「由良」
「由良?日本人か?日本人には到底見えないが…」
「母がギリシャ人で、父が日本人なの。もう天涯孤独の身だけど…」
「そうか…それで1人で水を汲んで来ていたのか。先程の罪滅ぼしだ。このサガが水を汲んで来てやろう」
「えっ!?そんな…!黄金聖闘士様にそんな事をさせるわけにはいかないよ!」
「黄金聖闘士が、天涯孤独の少女を見捨てる訳には行かないだろう」
「でも…」
「分かった。それならば、由良の家で昼食を共にするのはどうだ?水を汲んだ礼と思えばいい」

サガのあんまりの申し出に私は絶句するしかなかった。
遠くで眺められるだけでも良かったのに、危ない所を助けてもらった上に昼食を共にしてもらえるなんて…!!
私は頬を染めて、こくんと頷いた。




私が1人で村外れを訪れて、遠くを眺めていたのはカノンと喧嘩をしたからだった。
段々と悪事に手を染め、聖闘士にあるまじき行為を私にもそそのかすようになったカノンに苛立ち、張り倒してカノンの住む小屋を出て走って走って来たら、いつの間にか村外れへと出てしまっていた。

ぼんやりと、ただ遠くの海を眺めていると、見知った視線を感じた。
ふとそちらを見やると、水桶を持った、あの少女が私を見つめて立っていた。
目が合う前に、私は彼女の足元に毒蛇が迫っている事に気付き、彼女を抱き上げ飛びすさり、手刀を放ち毒蛇を断ち切った。

こんな形で彼女と触れ合うなんて思いもしなかった。
いつも寂しそうな、どこか距離を置いているような彼女と初めて会話をした。
天涯孤独の身の由良…。
ウェーブのかかったブラウンの髪に、オレンジ色の虹彩に縁取られた、吸い込まれそうなグリーンの瞳。
鼻筋はすっきりと通っていて、ギリシャ人の顔立ちだ。
日本人とのハーフには見えない。
由良をこんなに近くで見るのは初めてだ。

私は由良の水桶をひっくり返してしまった事に気付いた。
乾燥したギリシャの気候では、水を汲む場所は限られている。
その水を1人で汲むのは重労働だ。
私は不憫に思い、代わりに水を汲む事を申し出た。
由良は拒んだが、私はそれを許さず、代わりに昼食を共にするという交換条件で彼女の了解を得た。
触れ合ったばかりの彼女ともっと話がしたかった。
その瞳に映る淋しさの意味った今は、孤独から守りたい。
出来るだけそばにいてやりたい。
そう心から願った。


これが、私達の出会いだった。
この後、彼女を酷く傷付ける運命が待ち受けているなどと知らずに、私達は出会ってしまった…。
出会わなければ、彼女は傷付かなかった。

それでも、私は幸せだった。
人を愛するという意味を彼女が教えてくれたから…。



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