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騒がしい森を眺めて思う。今日は何の肉だろう。サッチさんに野菜が食べたいって言うの忘れてた。

「子供苦手なんじゃないんですか」
「得意じゃねェっつっただけだろ」

父さんの膝の上にいたわたしを、何を思ったか抱き上げて、自分の胡座の上に抱えている。いいんだけどさ。別に嫌じゃないし、いいんだけどさ。

「そういえば、マチには近づこうともしなかったわねえ」
「てっきり嫉妬してるだけかと思ってたけど」
「そこまで狭量じゃねェよ」
「でも、イズがマチにつきっきりで、寂しかったんじゃない?」
「否定はしねェけどな」

へえ。そうなの。そういや、そんな話もしたかもしれない。寂しい、とは言ってなかったと思うけど。

「イゾウさんは子供の何が苦手なんですか?」
「…柔くて脆いところ、か?」
「脆い…?」
「下手に力入れたら死んじまうだろ」
「それは、…大人でも一緒では?」

どんな力を入れる気だよ。幾ら赤ちゃんだって、そう乱暴にしなかったら大丈夫だよ。何すんの。投げるの?

「大人よりも力加減がわかんねェから怖いんだよ」
「へえ…イゾウさんにも怖いものがあるんですねえ」
「いっぱいあるわよ。怒った船長とか?」
「それはわたしも怖い」
「あとはベイにも頭が上がらないわよね」
「べい?」
「…あいつの話はいい」
「イズもそのうち会えるわ」

…そう。誰だろう。今度マルコさんにでも聞いてみようかな。イゾウさんと同じ反応だったら面白いけど。ふと見上げたら、額に唇が触れた。違う。そうじゃない。

「そうしてると親子みたいね」
「あ?」
「じゃあ、わたし父さんの孫になるの?」
「グララララ、孫の顔まで見られるとはなァ」
「そのうち見せてやるよ」
「は?」
「そいつァ、楽しみだ」

待て待て待て。今、何かやばい約束したな?誰の。誰の孫よ。いや、嫌とかそういうんじゃないけど、わたしは無理だぞ。絶対母親にはなれない。

「イズ、そのうちよ」
「いや、あの、いや、何も言ってない」
「言ってなくても、顔に書いてあるわ」
「書いてない!」

頭上でイゾウさんがくつくつ笑う。何だよ、もう。からかってるだけじゃなかろうな。子供はこうのとりが運んでくるんだよ知らないの?

「誰も今すぐなんて言ってねェよ」
「何も言ってません」
「なら、今からするか?」
「しない!」
「お前ェら、程々にしてやれェ」

言うて、父さんの声も笑ってるけどな!そんな、だって、そんなさあ!今までそんな素振りなかったじゃん。わたしが、あ、これあれだな、なんて思ったこと一回もない。…たぶん、ない。そもそもイゾウさんは、…その、わたしとそーいうことしたいの?息抜きに誰かを抱いてるって言われたら納得するよ?



***

「あー、イズル可愛い」
「何だよ。諦めたんじゃねェのか?」
「諦めたって可愛いは可愛いんだよ。おれも抱っこしたい」
「イゾウ隊長が離れねェからなァ」
「あの人、子供苦手じゃねェのか?」
「それ。マチの時は寄りつきもしなかった癖に…本当、何なの?」
「まァ、今始まったことでもねェしな」
「…皆ちょっと慣れすぎじゃない?」




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