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どうしてこうなった、というのは、わたしたちよりロハンさんに似合う言葉だろう。ごめんね。折角ついてきてくれたのにね。 「ロハン。追いつかれるぞ」 「頑張って」 「あんたら、ちょっと黙っててくれませんか!」 わたしとイゾウさんを、それぞれ両脇に抱えて、森の中を走り回る。熊みたいな何かだとか、猪みたいな何かだとか。何かいっぱい追いかけてくる。ひゅー。もてもて。 「取り敢えず森から出ろ。この匂い落とさねェとどうにもならねェ」 「出たいのは山々なんですけどね!」 「ここどの辺なんですか?」 「殆ど真ん中辺りだな。反対方向に走ってんだよ」 「そりゃ、真っ直ぐ走れりゃいいですけど!」 「ぐだぐだ言ってねェで何とかしな」 横暴。いやもう、ロハンさんに頼るしかないんだけど。頑張って。走れば走るほど、増えてる気はしないでもないけど。 「火拳!」 聞き覚えのある声と、炎が一気に森ごと焼いた。大丈夫?環境保護団体とかに文句言われない?食べるとこ残ってる? 「…、エース隊長、」 「お?ロハンか?」 「はい」 ロハンさんがわたしとイゾウさんを下ろす。すごいなあ。一気に蹴散らしたって感じ。あんだけ大きかった足音が、瞬く間に遠退いていく。いいなあ。 「そいつらは誰だ?」 「イズでーす」 着物の袖を振り上げて答える。首を傾げたのが答えだろう。地面に下ろされて目の前にしゃがんだかと思えば、乱暴に頭を撫でる。散々嗅いだ甘い匂いに、鼻と口を手で押さえた。これ以上縮むのはちょっと嫌。 「何か縮んだか?」 「縮みました」 「この甘い匂い何だ?」 「百年茸の胞子です」 「百年茸?マルコの言ってたやつか」 マルコさん?それは知らんけど。また動物寄ってきたりしない?寄ってきても大丈夫そうだけどさ。エースさんも縮むよ? 「てことは、そいつイゾウか」 「あ、はい」 「何か、可愛くなったな」 「あァ?」 「可愛いですよねえ。凄んでも可愛い」 「うるせェな…」 たぶん。たぶんだけど、わたしより小さいんだよね。わたしを庇ったせいなんだけど。いっつも見上げてばっかだから、目線が同じってだけで新鮮。なのに。 「あー、可愛い。意味わかんない」 「は?」 「小さいイゾウさんなんて想像したことなかったんですよねえ」 「イズ?」 「ちょっと見てください」 転ばないように気をつけて、イゾウさんの隣に立つ。ちょっとだけ。頭三分の一くらいだけ。イゾウさんが、上目に睨む。やばい。可愛い。 「すごくないですか?わたしの方がちょっと大きいんですよ!」 「気のせいだろ」 「気のせいでもいいんですけど!わたしの手がイゾウさんの頭に届くんですよ!」 「おい、イズル、」 「誉め言葉じゃないのはわかってるんですけど、他にどう形容したらいいかわかんないんです。わかります?」 「ああ、うん」 「可愛い。言葉って不便」 イゾウさんをぎゅ、と抱き締めれば、わたしの腕の中に収まってしまう。すごい。可愛い。造形が可愛いのもそうだけど。何かドーパミンが過剰分泌されてる気がする。 「…覚えてろよ」 「忘れませんよ?今なら写真に撮られてもいい」 「そうじゃねェよ」 「これって元に戻っちゃうんですか?」 「戻るに決まってんだろ」 「戻りたくねェのか?」 「いやもう、全然戻らなくていいです!ここから人生もっかい始めます」 「何年生きるつもりだよ」 だって、そしたらイゾウさんの成長過程を見られるじゃないですか。わたしは、大人になったイゾウさんしか知らないから。十代のイゾウさんとかも見てみたい。あんまり変わらなさそうだけど。 *** 「…エースのやつ、何考えてんだ?」 「随分風通しが良くなったな」 「森のど真ん中に道作っちまって…下手したら船に当たるところだぞ」 「何か面白ェもんでも見つけたのかもな」 「だからって、これはねェよ」 |
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