教室の入口でその細い身体を扉に預けながら可愛らしい女の子と楽しそうに話しているルルーシュを少しだけ熱くなった目で眺めていた。となりで目を細め、時折小さく彼の腕などに触れる彼女をうらめしくも羨望する。自分の、自分だけのものである筈の彼がほかの女の子と仲良くするところをまざまざと見せ付けられるのは、あまり気分がいいものではない。教室内に飛び交う人々の会話も、行動もその一切がぼやけ、唯一焦点が定まるのは、自分のしらない話を自分が関わったことのない女の子と自分が見えるところで満喫しているルルーシュだけだ。彼を束縛するつもりもないし、信じていないわけではないから、やめろなんて簡単に言えない。彼の交友関係にまで口を挟み、引っ掻き回すような付き合い方などしたくない。そんなことを一度でもしてしまえば、本当の意味で彼を縛り付けてしまう自分がいるような気がしてならないのだ。見つめ続ければいずれ気づかれてしまうことくらい承知していたはずなのに、無意識のうちかずいぶんと長い間彼らを見ていたため、僕の視線に気づいたルルーシュがふいに顔を上げた。目が会った瞬間いつものようにニヒルな笑みでひらひらと手を振り、僕がそれに答えるように微笑み返すとまた視線を女の子に戻して会話を続ける。あまりにも僕を軽視しすぎているのではないかと無性に悲しくなった。僕は、一瞬硬く目を瞑り次に開けた時は別の、窓の外を映していた。

「なんでこっちを見ていたんだ」
なんとなく、試しているような言い方だった。僕は適当に応えておく。「別に」という端的な応えが気に食わなかったのだろうか、ルルーシュは綺麗な形の眉を寄せて怪訝な表情で僕の顔色を伺っている。
「それだけか」
「うん。それだけ」
「……それだけか」
「うん。それ、さっきも言ったよ」
僕は意地悪く笑って、演技がかった溜息を漏らしてみる。するとやはり彼は僕の態度が気に食わないらしい。僕はトドメを刺すようになるたけ冷ややかに言って見せた。
「本当、君は可愛げがないよ。ルルーシュ」
ルルーシュの顔色が一気に変わる。一層顔を強張らせて睨みつける様に噛み付いた。声に何時もの余裕などなく、揺れていた。
「なんでお前はいつもそうなんだ」
「なにが」
「だから!なんで、お前いつも…」
「…どうしたの、ルルーシュ」
なるべく優しい声色で名をよんでみる。ルルーシュの目は、少しだけ薄い膜が張ってあるようだった。僕は目の前で僕自身に一喜一憂して、翻弄されるルルーシュが一層愛おしく感じた。さらさらとした黒髪をそっと撫でてやる。今にも真珠のような塩辛い涙の粒が零れ落ちそうだった。
「妬いてほしかった?やっぱり、ルルーシュは可愛いね」
「可愛げないって、さっき言ったくせに」
「なかないで」
「泣いてない!!」
瞳をゆらゆらとさせながら真っ赤な顔で怒りを露わにする彼は、本当に可愛いと思うのだ。嫉妬して欲しくて結局泣かされちゃうとか可愛すぎる。
「もうお前黙れ…」
「あれっ、心読んだ?」
ルルーシュは呆れ顔で口に出ていたぞと諦めたように呟いた。どうやら涙はもう引っ込んでしまったらしい。惜しいことをしたような気がする。僕がいつもと変わらぬ調子でルルーシュに向けて右手を差し出すと、おずおずと戸惑いの視線を向けながらもその手に白く艶かしい手が重なる。その度に、単純な細胞で構築された僕の心臓は鷲掴みにされてしまうのだ。手を握ったまま静かな廊下に出る。しばらくそのまま廊下を歩いていたが、ふと止まってみる。隣を歩いていた彼が不思議そうに僕を仰ぎ見た瞬間、薄桃の唇を厭うように、慈しむように少しカサついた僕の唇で覆った。




130112


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