お風呂からあがると、彼はリビングで優雅にコーヒーを飲んでいるところだった。
「……眠れなくなるよ。夜にコーヒーなんて」
アメジストがこちらを向く。
「…これから会長に押し付けられた書類、全部整理しないといけないんだ」
夜中までかかる、と言ってまたコーヒーを一口飲んでいた。
僕は軽くため息を一つついて、彼の後ろに立つ。
「髪ぐらい乾かしなよ」
まだ湿っている彼の黒髪に触れる。
肩にかけたままだった自分のバスタオルで、なるべく優しく水気を拭き取ってやる。
すると、きろりと下から睨みつけられ、思わず苦笑した。
その位置で睨まれても、上目遣いみたいで逆効果だよ、ルルーシュ。
なんて、検討外れなことを考えながらも手は止まらない。
「…別に今すぐ寝るわけじゃないんだ。自然乾燥でも支障はなかった」
「勿体ないよ。せっかく綺麗な髪なんだからさ。サラサラで、いい匂いもする…僕は好きだよ、ルルーシュの髪の毛」
ぐふっ、と。
わずかにルルーシュがコーヒーを吹き出してむせ返るので、僕は彼の髪から手を離し、慌てて細い背中をさする。
「え、ちょ、大丈夫?」
「…お前、どこでそういうボキャブラリーを増やしてくるんだ」
黒髪の隙間から見える耳が赤い。前を向いたまま口元に手をやるルルーシュの表情など、見なくても分かった。
「…さぁ、どこだろう」
悪戯めいた台詞をわざと吐いてみる。
するとルルーシュはガタリと急に立ち上がって、僕と向き合った。
「馬鹿がッ…!!」
照れ隠しなのか、突然バスタオルを目のあたりに押し付けられる。ルルーシュがぼんやりとしか見えなくなって、邪魔なバスタオルをどけようとした瞬間、布越しの唇に別の体温が重なった。
「…お前のせいで眠れなくなった」
か細く掠れた声と共にリビングのドアが閉まる音が聞こえ、僕はやっと目隠しバスタオルをはぎとった。
「…コーヒーの味、する」
しまった。
僕も眠れなくなったじゃないか。
この布きれのせいで、彼のおそらく真っ赤な可愛い顔が見れなかったのだが、頭の中だけで想像して、ひっそりと欲情してしまった。
もう、だめだ。今日は眠れないかもしれない。
半分コーヒー。半分、君。




130107





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