ルルーシュ、君は笑うだろうか。
僕が、夜明けが怖いと言ったら。
漆黒の闇が安っぽく溶けて行き、眩しすぎるほど白い太陽の光が顔を出す、その直前までの暗闇が怖いと言ったら。もし、太陽が機嫌を損ねて天に昇らなかったら。そう考えるだけで怖くなる。
どうしようもなく、怖くなるんだ。
ルルーシュ、君は笑うだろうか。こんな僕を情けないとわらうだろうか。

空が真っ赤に燃えていた。
約束していた時間より、幾分か早くついてしまった。驚くだろうか。
僕はすこし浮き足立った心持ちのまま玄関のベルを鳴らす。乾いた鈴の音が響いた数秒後、ぎこちなく扉が開いた。
「おかえり、スザク」
ルルーシュは微笑む。
「ただいま、ルルーシュ」
僕もつられるようにして笑った。
愛しい存在が出迎えてくれるこの瞬間、どうとも形容し難い幸福感に満たされる。
一足先にリビングへ通されると、ナナリーが僕の足音に気付いて柔らかに笑んだ。
「スザクさん、おかえりなさい!」
「ただいまナナリー」
車椅子の彼女の元に歩み寄り、そっと華奢な手を握る。目も見えず、足も不自由で、正直とても不幸な境遇に立たされていると思う。ルルーシュとはまた違う、不幸の波。
同情とひとえに形容するのは、少し違う気がする。例え同情から生まれた感情なのだとしても、守りたいと思う気持ちに嘘はない。
軍人ゆえだろうか? いや、私情だ。
大切な彼らを守りたいのは、きっと幼き日から変わらない想い。優しくも儚く、割れ物のような彼らを、僕は。
「ーースザクさん?」
はっと飛びかけていた意識を慌てて戻す。ナナリーが不思議そうに僕を見上げていた。
「あぁ……ごめん。ちょっと疲れてるのかな」
誤魔化すように笑うと、ルルーシュが料理を運びながら咎めるような声で言ってくる。
今日はオムライスらしい。
「お前がこんなに早く来るなんて珍しいからな。無理でもしたのか?」
「そんなことないよ。今日はたまたま早めに帰ってこれたんだ」
「いつもそうだといいんだけどな」
冗談めいた言い方が彼らしくて、思わず笑みが浮かぶ。
ルルーシュ、その言い方じゃあまるで僕の奥さんみたいだね、と言うと、案の定彼は顔を真っ赤にして怒り、ナナリーは楽しそうにくすくすと笑うのだった。
楽しい。
嬉しい。
ずっと、こんな優しい時間が続けばいいのに。
ねぇ、ルルーシュ?




瞳の奥から泪が生まれて、音もなく落ちていく。幾度も幾度も落ちていく。僕はこの現象を止める術を知らない。彼なら、知っていたかもしれない。
ぼんやりと目を開けると、白い湯気が僕を包んでいた。湯浴みの時僕は温かなお湯のなかで、こうして一時逃れの思い出に浸るのだ。
身体の芯が熱い。のぼせた頭は君のことしか考えられない。
僕は無理矢理立ち上がり、小窓を開ける。とても細く、白んだ三日月が色褪せたような朝焼けの空にぽっかり浮かんでいた。
「こわいよ、ルルーシュ」
君のいない今日が、また始まるんだ。
大人の僕はまだ君に「おやすみ」を告げられない。
どうか、おやすみを言い終わるまで側にいて欲しいと願うよ。
瞼の裏には、今も色褪せない君がいきている。

130521


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