あれから、一週間が経ちました。
「スザク、相変わらず本ばかり読んでいるみたいだけど、新しい住居の居心地はどうだい?」
「…悪くはないよ」
スザクは文机に向かったまま、一言しただけでした。
私から言わせれば悪くはないどころの話ではないのです。彼の今までいたところは、北向きの湿っぽいにおいのする汚い部屋でした。食事も部屋相応に粗末でした。私の家へ引き取った彼は、幽谷から喬木に移った趣があったくらいです。
それをさほどに思う気色を見せない一つは、彼の強情から来ているのですが、一つは彼の主張からも出ているのです。
仏教の教義で養われた彼は、衣食住とかくの贅沢をあたかも不道徳のようにかんがえていました。なまじい昔の高僧だとか、聖徒(セーント)だとかのように、彼にはややともすると精神と肉体を切り離したがる癖がありました。
「なぁスザク。もう少し奥さんたちと話してみたらどうだい?」
「時間の無駄だよ。ジノ、君こそ無駄なことだとは思わないのかい?」
私はなるべく彼に逆らわない方針をとっていました。氷を日向に出して溶かすふうをすれば、スザク自身に何かしらの時期がくるに違いないと思っていたのです。
スザクと私とが性格のうえにおいて、だいぶ相違のあることは長く付き合ってきた私にはよく分かるのです。けれども、私に言わせれと彼は我慢と忍耐の区別を了解していないように思われるのです。
「精神的に向上心のない奴は、馬鹿だ」
艱苦を繰り返す功徳。実に克己的で強情な精神の男です。偉大です。しかし私はやはり、自分で自分を破壊していくスザクをこのまま孤独な境遇に突き落とすのは嫌でした。
「ジノ?」「ルルーシュ…」
台所へ水を飲みにいくと、ルルーシュに出会いました。隣には奥さんも居ましたので、私は二人にスザクのことを話しました。
「あいつは、これまでの無言生活が原因で人と人との距離を図りかねているだけなんだ。だから、なるべく話しかけてやって欲しい。どんな些細なことでも構わない」
私が真剣な面持ちでそう話すのを、ルルーシュと奥さんは笑いながら聞いていました。そして「そんなの見ていればわかる」と言うのです。奥さんも、同じ男なのだからルルーシュともいずれ打ち解けるでしょうと言うのです。
私は心底安堵すると同時に、ここに彼を連れてきたことは間違いではなかったと思えました。
しかし、私のこころにはスザクの『精神的に向上心のない奴は馬鹿だ』という声がなんども反響していました。それがなんの予兆だったのか、今では少しわかるような気がするのです。

130426


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