※下衆な表現注意

暗くて冷たくて、息なんて出来なかった。酸素を取り込むたびに苦しくて、何度も吐きそうになった。
それでも二人分の熱い鼓動が愛おしいと思ったのは事実だった。

スザクは面倒事が嫌いだった。
それでも彼は愛しい皇女様の騎士であるわけで、彼女の為にと日々精神をすり減らして尽くしてきたつもりだ。しかし、彼女は皇女様なのであって、自分と戯れる為に休暇をとれることなど滅多にない。ユーフェミアがいない時はこう毎日同じような軍事ばかりを任されてばかりで、正直スザクはストレスを感じずにいられなかった。
勿論、ユフィと居るときは仕事のことなど忘れてしまうくらい彼女のみに夢中になれる。
だからこれは、反動なのだ。
そう思うしかなかった。


「っひ、ぃあ…!」
 細い光が僅かに差し込むだけの薄暗い空き家にて、男のか細いく切ない喘ぎが響く。部屋の真ん中にある柱に、衣服を剥ぎ取られた細身の男が目隠しをされて手首を頭上の高い位置で縛り付けられていた。太陽の下で陶器のように白く輝いていた素肌はこの薄闇では陰り、それでもぼんやりと青白く浮かび上がるしなやかな手脚は彫刻作品のように美しいとスザクは思った。
「っな、んなんだ…!ほんとう、に…ッ 」
男が暴れる所為で、その肌に縄が食い込み赤く擦りきれる。膝を畳んだ状態で固定された両足が、どれほど宙を掻いてもバタ足を練習する子供の足掻きにしかならず、足を割って体を割り込ませているスザクはうっそりと微笑んだ。
「そんなに暴れても、興奮を煽るだよ?」
「貴様ッ誰なんだ…!顔くらい見せろっん、ぁ!」
騒ぎ出した男の、あらわになった性器を擦ると、生意気な口答えをする唇から甘く漏れる熱い吐息。
すっかり茹で火照った体を滑るように撫でて、先刻飲ませた薬がよく効いていることにひっそりと満足する。不思議と勝手に口が弧を描いていた。





彼を見付けたのは、本当にたまたまだった。雑踏のなかでも男の漆黒の髪は陽光に煌めき、淫靡に誘っているようにも見え、スザクその美しい男を思わず目で追い掛けた。
ーー騎士として皇女を抱くのは失格で、しかしその辺の女を抱くのは面倒で、だからといって一人で抜くなんて味気ない。
そんなスザクが密やかに楽しんでいたのは、観光客の男を適当に拐ってきて無理矢理犯すことだった。女と違って男ならば、強姦されたとしてもプライドが先んじて他人には相談なんて出来ないし、なにより、孕まない。誰にも気取られず誘拐するなんてランスロットの操縦よりも簡単で、それは実にいい気晴らしにもなった。
 
そうしてこの男が今回の標的になったわけだが、スザクの興味を引いたのはその眉目秀麗な容姿ばかりではない。
他の誰とも違う、冷めたような、見透かしたような深い紫色の瞳。あの目はスザクもよく知っていた。劣情を孕んだ瞳。
手加減のいらない相手。それだけで、スザクは自分が酷く高揚していることに気付いた。


「でも、こんなにあっさり捕まえられるなんて驚きだよ。油断しすぎなんじゃない?」
ぐちゅりと男の後腔に濡れた中指を潜り込ませながらスザクが言うと、男は悔しげに口の端を噛んで声を殺した。男に飲ませた薬は速効性の催淫剤で、多少の痛みでさえも快楽のように感じるのだろう。一気に根本まで指を差し込むと、男は真白い胸を弓なりに反らせて魚のように跳ねた。
「あっ!は、あっ」
「この辺に住んでるの?」
「うあっ、や、やめろ!うご、かすなよ…っ」
「案外口悪い…。余裕みたいだし、あと二本増やすね」
「やっ、や、待て!やだっ、やめっやああぁっ!!」
唐突に一本から三本へ増やされた指の質量に、男はろくに声を殺せず叫んで喉を仰け反らせる。晒された白い喉がまるで誘うように上下している。スザクはたまらず身を乗り出して男の喉仏にかじりついた。
「あっ、ん…!!や、め、やめてくれ…!!」
「…お願いされるのは気分がいいね。まぁ、止めないけど」
「は…ッ!!」
中で容赦なく指を曲げると、男は息を詰める。指にまとわせた香油を襞に隙間なく塗り込むだけの、快楽を引き出す気なんて毛頭ないそんな動きにもかかわらず、薬で高ぶる男にはそれでも充分なくらいだった。
「それで、君は一体どこの人なんだい?」
「んぁっ、ああっ!ど、どういう…?」
「……僕はこう見えても軍の者なんだ、君のように表情の見えない人を疑ってしまうんだ」
別に尋問したいわけではない。
顔つきでブリタニア人ということは分かっているし、スザクの目的はあくまでもこの男を犯して欲を吐き出したいだけなのだ。香油を粗方塗り込めると指を抜き取り、代わりに勃起した性器を押し付けた。男の背がびくりと震えて、吐息のような頼りない声が「やだ、やだ」とうわ言のように繰り返せれる。そんな彼の怖がる様子が可愛く思えて、そういう状況に突き落としているのは他ならぬ自分自身だということに優越感を感じたスザクは、男の頭をくしゃくしゃと撫でて慰めてやった。
「男がみっともなく泣くものじゃないよ。痛くないから、力を抜いて」
「や、やだ!頼むっ、やめっ!お願い…っう、あ、あああっ!」
悲鳴にも似た懇願は聞き流して、手加減なんてせずにすぶすぶと一気に男を貫いた。男の体はガタガタと小刻みに震えて、熱くうねる内部が猛り狂うスザクの性器に絡み付く。
「ん、これは…中々…!」
「あっ!やだ、やめっああっ、やめろっ!うぁっ…!!」
平均より長いと自覚している性器を奥まで遠慮なく突き込むと、男は殆ど叫ぶような嬌声を上げて勢いよく白濁を迸らせた。それはスザクの私服にもいくらか跳ねたのだが、不思議と苛立ちは沸かなくて首を傾げてしまう。
ーこれが常ならば、男の頬を腫れ上がるくらいひっぱたいて射精できないように根本をきつく縛り上げてやるものを。
「おかしいね…」
「ひっ、ひ、ぐっ…やだ、や、うごくなっ、で…っ!」
「あはは、やだよ。動かないと僕がいけないからね」
「あああっ!!」
頭の中で湧き上がった疑問はあとでじっくり考えるとして、スザクは達したばかりの男の腰を抱えて勢いよく抽挿した。薬の効果で荒れ狂うような快感の波に叩き付けられている男は、口を閉じる暇もなく悲鳴を上げる。
耳元で響く叫びはうるさいと感じるどころか酷く甘く、もっと聞きたいとすら感じて、スザクはどこか自分がおかしくなってしまったのだと内心嘆息した。
だが相手はスザクの顔など分からないのだし、身分も知らない行きずりの男。戯れに慈しんでも問題はないだろうと踏んで、スザクは男の背も抱き寄せて胡座をかいた上に繋がったまま座らせた。
揺らすたびに際限なく上がる悲鳴と淫靡な響きを含む水音が心地よい。
手首は柱に括り付けられたままで、腰と背を引き寄せた所為で反った胸に舌を這わせた。
「ひぁっ、あっあっ!」
「別に、なにを疑ってるわけでも、ないんだけど、ね!」
小さな胸の突起を歯先でいたぶりながら突き上げてやると、ひっきりなしに上がる甘い嬌声。たらりと口の端をこぼれた唾液を舐め取ると、男の喉がこくんと鳴って、スザクは思わずまじまじと見詰めた。
「どうしたの?」
「ふぅ…っ」
腰を止めて様子を窺う。
意識が朦朧としてるのか、男はふうふうと荒い呼吸を繰り返しながらも抵抗する素振りはもうなかった。
なんとも早い陥落だとも思ったが、薬をしこたま飲ませていたのだから然もありなんというところか。
手首の拘束は解かず柱から開放すると、ぐったりとした男の体はスザクの方へ凭れてきた。角度が変わったことで先端が抉る位置も変わったのか、仔猫のように鳴いてかりかりとスザクの背に爪を立てる。
「…噛んだら流石に怒るからね」
「んんっ、あ…」
噛みついてきたら二度と肛門が閉まらなくなるまで手酷く犯してやろうと、スザクは開いたままの男の口に自身の唇を寄せた。
男は一瞬驚いたように顎を震わせたが、スザクが宥めるように舌で歯茎をなぞると鼻から熱い吐息を漏らす。更にはあちらから吸い付いてきて舌まで絡めようとする様に、男に感じる愛しさが募った。
薬を使わなくてもこうなったのだろうかと気になって、今度は素面の時にやってみたいと思う。
一人の人間との、"二度目"を考えたことなどはじめてのことだ。
いつだったか、ロイドの言っていた「情が沸く」とはこのことかと驚きつつも、柔らかくうねる肉襞の感触にねだられて腰を揺らす。
「あっ、んっ、あんっ」
「ねぇ、名前は?」
「な、まえ…っ?」
「そう、名前」
腰をゆるゆると動かしながら問い詰めると、男は決心するように一度口を引き締め、震える唇を開いた。
「ル、ルルーシュ…」
ルルーシュ
「あっ!?」「えっ」
スザクが男の名前を反復するように耳元で言うと、男、ルルーシュの中が先より一層震えた。
「…名前呼ばれるの、好きなんだ?」
「くっ…」
「…っは、可愛いね、ルルーシュ」
認めるしかないと思った。目の前の男が可愛く見えて仕方ないのだ。可愛く、そして愛おしい。そう断ずることにもう戸惑いはどこにもなく、名前を口にする度にルルーシュの身体は何度も波打った。
スザクはルルーシュを拘束していた縄を解き、ついには目隠しも外してやった。これで抵抗されたら残念だな、と思ったが、相手の出方を大人しく伺った。
涙に濡れたアメジストの双眸が明らかな戸惑いを含んだまま、とろりと蕩ける。
ルルーシュはスザクの顔をぼんやりと見つめ、そしてうっとりと目を細めた。
その扇情的な視線にスザクは噛み付くようにルルーシュの唇を奪い、これでもかと言うほど乱暴な口付けを繰り返す。
「あっ、はっ…ああ!」
「一度きりだなんて、勿体ないな」
スザクもルルーシュもお互いのことを気に入っているようだし、何より身体の相性がいい。このまま使い捨てて、他の人にくれてやるのは惜しい。
「ねぇ」
「あ、な、なにっ…?」
「またお願い出来ないかな」
甘さなど一つもない誘いだったが、ルルーシュはうっそりと頬を染めた。男の官能に火をつけるのが実に上手い、器用な男だとスザクは苦笑した。
ーそうして幾度も精を吐き出したあと、惚けたまま暗い路地に横たわるルルーシュが息を整えて言った。
「お前の…名前、は?」
スザクは口角を上げて、ルルーシュに囁いた。
今度会ったら、教えてあげる。
ー必ず膝をつかせてやる。
そう思いながら、スザクはルルーシュの身体に自身のジャケットをかけて彼の元から離れていった。


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