私の座敷には控えの間というような四畳が付属していました。玄関を上がって私のいるところへ通ろうとするには、この四畳を横切らなければならないのだから、実用の点からみると、しごく不便な部屋でした。私はここへスザクを入れたのです。もっとも、最初は八畳に文机を二つ並べて、次の間を共有にしておく考えだったのですが、スザクは狭苦しくても一人でいる方がずっといいと言って、自分でそっちの方を選んだのです。
実をいうと私だってスザクと一緒にいる必要はなかったのです。彼は独立心の強い男ですから、月々の費用を彼の知らないうちに奥さんに手渡さなければ彼はきっと躊躇すると思いました。奥さんはそんな人を連れてきて本当に大丈夫かと言っていましたが私は私とスザクの経済問題について、一言も奥さんに打ち明けるつもりはありませんでした。私は奥さんの問いかけにただただ苦笑するばかりで、一人で置くと人間がますます偏屈になるばかりだからと言いました。
それに付け足して、スザクが養家とおりあいの悪かったことや、実家のことを色々話して聞かせました。私は溺れかかった人を抱いて、自分の熱を向こうに移してやる覚悟でスザクを引き取るのだと告げました。そのつもりであたたかい面倒を見てやって欲しいと、奥さんにもルルーシュにも頼み込んだのです。
「本当にその部屋でいいのかい? その四畳は寒いぞ?」
「ああ、いいよ。寒さには慣れてるからね。君と四六時中ずっと同じ空間にいるよりはいい」
ぶっきらぼうにそう言うスザクに失礼だなと苦笑を漏らした時でした。
失礼するぞ、と襖の向こうから声を掛けられて、ルルーシュが部屋に入ってきました。どうやら親切にもスザクの荷物を片付ける手伝いをしに来てくれたらしく、彼は真っ直ぐスザクの部屋となった四畳へ向かい、スザクに声をかけます。
「おい、ここに住むのか…? ここは狭いし、寒いだろう。そこの扉は庭に直通しているから隙間風も入るし、雨も入るかもしれない……そうだ、後で物置から余っている火鉢を持ってきてやる。それなら多少はあたたかくなるかもしれない」
「君には関係ない」
空気を切り裂くそれは酷く冷徹な声でした。
ルルーシュの背中越しに見えた、薄闇の中でぎらりと鈍く光るあの瞳を私は知っています。あの瞳の色は、彼の父親が亡くなった時にみせた色と酷似していました。私は、背筋が凍りつきそうな感覚を感じていました。今のスザクの本質が、私の知っているあの頃のスザクとなんら変わりないのだと言うことくらい重々承知していたはずでした。しかしやはり私には他人の一切を拒絶し、自らを孤独に追い込もうとする彼をどうすることも出来ないのです。すっかり萎縮してしまった私がなんと声をかければいいか思案していると、凛とした確かな声が冷たい空間に広がりました。

「関係なくなんか、ないだろ」

その一言に、スザクの瞳が僅かに揺れました。
「関係なくなんかない。お前は今日からここに住むんだぞ。俺も一応、この家の家主なんだからな。関係ないとか、言うな」
私からはルルーシュがどんな表情でそう言ったのかは分かりませんが、スザクはなにも言い返しませんでした。かわりに瞳の色が弱まっていき、訝しげにルルーシュのことを見たあと背を向けて荷物を片付けはじめました。私は心の底から安堵しました。ルルーシュは奥さんのようにスザクを拒絶することはないと分かったからです。そのことが私は少なからず不安でしたので、良かったと息をつかずにいられませんでした。
片付けが終わりに近付いた時、ルルーシュは奥さんに呼ばれて行ってしまいましたので、私はスザクにもう少し愛想良く出来ないのかと言いました。するとスザクは相変わらずむっちりした様子で不機嫌そうな声を出しました。
「そんなもの、邪魔になるだけだ。僕には必要ないよ」
淡々とそう答えて、スザクは私のいる八畳との仕切りである襖を閉めてしまいました。
「相変わらずだな」
ーこの時の私は、スザクのこころに一抹の変化が起きていることなど気付きもしないのでした。


130225




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