恋愛において大切だと思うことは多々あるが、1番計らなければいけないのは二人の距離感だと思う。
近づきすぎてもいけないし、かといって遠くなりすぎて好意が伝わらなくなるのは悲しい。二人にとっての適切な距離というものが、どんな恋人であっても存在し、1番考えなくてはいけないことだと感じるのだ。
俺は今まさに、痛切に感じている。

「あれ? 大地、まだ残ってたのか」
「スガ」
バレーを引退して、高校を卒業して、すっかり大学生となった今でもスガは俺の親友だった。同じ大学を目指していたなんてことは、お互い合格発表の時に偶然鉢合わせて知った。
一言くらいいってくれよ、驚いた、と二人して同じことを言って笑ったのがつい先日のことのように思うが、季節は冬真っ只中。外は雪で覆われていた。
「スガはいま帰りか?」
「うん。大地、帰らないの?」
「あー…」
今日はもう授業はないので帰りたい気持ちは山々なのだが、なにしろこの雪だ。
この雪が、俺を憂鬱にさせる。
「傘、忘れたんだよ…。やんだら帰ろうかなと思ってる」
「え、やむと思ってるの…?」
スガが顔を引きつらせて俺を見るので、俺は苦笑いを返しておいた。
正直やむとは思えない。しかし天気予報ではくもりの予報だったはずだ。待っていればそのうちやむかもしれない、と言うことをスガに伝えると、スガはふぅんと心持ち重い返事をした。
「一緒に帰ってあげたいけど、おれ今日バイトなんだよなぁ…ごめん」
「いや、いい。気にするなよ」
スガはもう一度ごめんと言うとじゃあ、と手をあげて銀世界へ踏み出して行った。さて、どうするか。このままホールにいても暇だ。だからといって食堂に行くわけにも…などと思考を巡らせていると「大地!」つい先程出て行ったはずのスガが走って戻ってきた。
「外!! 外、来いって!!」
ぐい、と腕を掴まれてしまい、俺は抵抗する間もなく無理やり外に出されてしまった。冷たい空気が頬を刺す。寒い。
「ほら! 大地! あそこ!」
先からスガの行動は意味が分からないのだが、俺は正直にスガが指をさしている正門前を見る。
雪景色の奥にぽつりと、浮かぶように佇む黒が見えた。
その黒は俺の視線に気付いたかのようにタイミング良く振り向くと、ビニール傘を揺らしてこちらに歩いてくる。その人物を理解した瞬間、俺の頭は沸騰したように熱くなった。
「……潔子?」
きよこ、が、いる。
無意識に零れたそれは愛しい恋人の名前。彼女はどんどん俺との距離を縮めてやってくる。隣でにやにやと笑っている親友のことなどすっかり忘れて、俺は本来ここにいるはずがない彼女の姿に目が離せないでいた。
彼女とは大学が別なのだ。時間も違うし、一緒に住んでいるわけでも無いのでここ一週間くらい疎遠になっていた。たった一週間。されど一週間。彼女はあまりメールや電話を好まないので連絡を取り合うことも少なかったのだ。
「だいち」「きよこ」
目の前に一週間振りに会う恋人。
「なんとなく、会いに…来てみた」
ちょっと恥ずかしそうに、はにかみながら言葉を紡ぐ姿は高校の時から変わって居ない彼女の癖だ。
「…寒かっただろ?」
「平気。大地のこと、考えてた」
体温の上昇を感じる。心臓はとっくに沸点を越えて暴れていた。
彼女は言葉のキャッチボールの最中に、平気で爆弾を投げつけてくる女だと言うことは付き合ってから知ったことだ。知っていたことも、知らなかったことも、まだ知らないことも、全部好きだと思った。
俺は誤魔化すように彼女が持つ傘を奪う。
「ありがとう」
「うん」
「…手、繋ごう?」
そう言うとおずおず手を重ねてくる。
距離が縮まって、自然と俺が左で潔子が右という形におさまる。
なんとなく可笑しくて笑うと「ご馳走様!じゃあな二人とも!」スガが機嫌良く走って帰って行った。ここでようやく親友の存在を思い出した俺は、一連の行動に羞恥心を覚えるのだった。
「かえろ」
「…ああ」
俺が笑えば、潔子も笑う。
会いたくなったら会えばいい。
ぼんやりとしたこの距離が、俺たち二人の適切な距離なのだろうと考える。
やっぱり、恋愛において1番大切なことは距離感だ。明日このことをスガに話してみよう。
手の平から感じる確かな体温に、もう雪の煩わしさなど微塵も感じなかった。


130127




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -