「ルルーシュ」
「ん?なんだい、ジノ」
いつものように食事を終え、彼がちゃぶ台の上を片付けている時に私が声をかけると、彼は不思議そうに手を止めて私を伺いました。
「握り飯を頼みたい」と言うと、彼は可笑しそうに口元を緩めて「いま朝食を食べたばかりだろ」と言いました。
私は、彼のこの表情がすきでした。
普段はとんと真面目で聡明な彼ですが、時々、子供みたいに無邪気な顔で笑うのです。私はその顔を見るたびに、嬉しさと愛情が湧き上がってくるのを感じます。
「いや、わたしではないのだが…とにかく、お願いしてもいいかい?」
頼み込むと、案外彼はあっさり了承してくれました。私は彼のこさえてくれて握り飯をもって、奥さんに出かけてくることを伝えた後、うちを出ました。


私が向かったのは、とある工事現場でした。ここではたくさんの男性が昼夜問わずせわしなく働いています。今はどうやら休憩時間のようで、大半の人は皆日陰でご飯をたべていました。
私はその輪の中からぽつんと離れた1人の元へ向かいます。
その男はなにを食べる訳でもなく地べたに座り、片手に水、もう片方には小難しい文献を持っていました。両脇にはたくさんの本がつまれています。
すっかり自分の世界に入り込んでしまっている友人に「スザク」と声をかけました。
「なにしにきたんだい? ジノ」
「握り飯を持ってきたんだよ。どうせお前、なにも食べてないんだろ?」
「…そう。君は本当に世話焼きだね」
スザクは、私の友人です。私とスザクは子供の時から仲良しでした。
スザクは枢木神社の跡取りでした。真宗のものは、大抵が裕福な家でしたので、スザクの家も勿論裕福でした。
しかしスザクは突然、医者の家へ養子に行ったのです。それは、私達がまだ中学の時でした。どうやら、スザクのお父さんが亡くなったようなのです。スザクは、私には何も打ち明けてはくれませんでした。それが酷くもの悲しく、しかしスザクは私以上に寂しい気持ちでいっぱいなのだろうと考えると、胸が締め付けられるようでした。
スザクは強いのです。神社に生まれた彼は、常に精進という言葉を使いました。宗教とか哲学とかいうむずかしい問題で、私を困らせました。それは父の感化か、はたまた自分の家のせいなのか、分かりません。私は心のうちで常にスザクを畏敬していました。
そうして時がたち、スザクは私とともに東京に来ました。スザクの養子先はかなりの財産家で、スザク1人分の学費など容易に出せるそうです。
彼は工事現場で働き、ここの宿舎で寝泊まりをしています。私はスザクの身体が心配でなりませんでした。だからこうして暇があれば彼の様子を見に来るのです。
「なぁスザク。ここの工事が終わったらどうするんだ? 学校がある。野宿っていうわけにはいかないだろ?」
「考えてないけど…きっとなんとかするよ」
「養父母に手紙でもだしてみたらどうなんだ? もしかしたら寝泊まりできる場所を探してくれるかもしれない」
「そんなことは出来ない。迷惑になる」
「医者になると嘘をついているのに?」
スザクは黙ってしまいました。
元来スザクの養家では彼を医者にするつもりで東京に出したのです。しかし頑固な彼は医者にならない決心を持っていました。道のためなら、そのくらいのことは構わないと言うのです。
スザクはすました顔をして、養家から送ってくれる金で自分の好きな道を歩き出したのです。
「なぁ、スザク。うちに来ないか?」
「その話は前に断った筈だよ、ジノ」
「私も居候の身だから、家主である奥さんに聞いてみないとなんとも言えないんだが…考えてみてくれないか?」
「どうしてそこまで僕に構うんだい」
「心配だからだ」「放って置いてくれ」
「奥さんもその息子も、二人ともいい人たちなんだ。きっとスザクも上手くやれる。なぁ…頼むよスザク。私は、お前の言う道というものに興味があるんだ。私にお前の道とやらを見せてくれないか?」
スザクはぱたりと開いていた本を閉じて、今日初めて私のことをみました。
「…わかった。考えておくよ」
どうやら私は、彼を説き落とすことができたようです。
「…ああ!奥さんに聞いてみるよ!」
私はスザクの手を取り、固く握りしめました。スザクはほんの少しだけ、微笑んでいました。


130126





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