彼は、桔梗の花のような人だった。

私を呼びにくるのは、たいてい彼でした。彼は縁側を直角に曲がって、私の部屋の前に立つこともありますし、次の部屋の襖の影から姿を見せることもありました。
彼は、そこへ来てちょっと留まります。
「ジノ」
それから私の名を呼んで、『勉強?』と聞きます。私はたいてい難しい書物を文机の前にあけて、それを見つめていましたから、はたからみるとさぞ勉強家のように見えるのでしょう。
しかし実際はそれ程熱心に勉強していなかったのです。ページに目を付けていながら、彼が呼びにくるのを待っているくらいなものでした。
逆に待っていて来ないと私の方から立ち上がって、『勉強か?』と聞くのです。

彼の名前は、ルルーシュ、と言いました。私が居候させて貰っている下宿先の奥さんーーマリアンヌさんの一人息子でした。
二人ともとても良い方々で、私はすぐに馴染むことが出来ました。
奥さんは、未亡人でした。若くに戦争で旦那さんを亡くし、殆ど一人きりで息子のルルーシュを育てたといっていました。しかし、奥さんにはそんなことを微塵も感じさせない、不思議で力強い魅力がありました。
気立てが良く、礼儀正しい、強い女性でした。
問題なのは、彼との方です。
私は彼の顔を見るたびに、自分が美しくなるような心持ちがしました。彼のことを考える私のこころは、全く私という人間の肉のにおいを帯びていませんでした。

私は、ルルーシュに、恋をしていたのです。

奥さんと彼と私の関係は、まるで一つの家族のようでした。私にはそれが堪らなくうれしいことでした。
しかし、ここにもう一人男が入り込まなければならないことになりました。
その男が、私と、彼の運命を大きく変えてしまうのです。




130118



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