パラレル執事 | ナノ
一夜の彼氏 続編 1/1

「いらっしゃいませお嬢様、ホストクラブPHANTOMへようこそ!」

扉を開けると、煌びやかな世界とそれに負けないくらい煌びやかなスーツ姿の男性達。

つい最近まで苦手だったこの場所も、今ではすっかり慣れてしまった。


「ユイさんいらっしゃいませ。今日はお一人ですか?」

席に案内してくれたのは顔馴染みになったヘルプのコウ君。

「すいません。今セバスさん別のお客様についてるんで」

申し訳なさそうに言ってから彼は慣れた手つきでグラスにお酒を注ぐ。

「はい、どうぞ!度数高くないから飲みやすいですよ」

「ありがとう」

「いえ、ユイさんには飲ませ過ぎるなっていつも言われてますから」

「え、セバスチャンさんに?」

当たり前じゃないですか、とコウ君は笑った。
そしてそっと小声で囁く。

「此処だけの話なんですけど、セバスさんはかなりユイさんにお熱ですよ」

「そんなこと…っ!」

ある訳ないと言いかけた私を遮って、彼は更に声を低めた。


「あのヒト、絶対に客と一線は越えないんですよ。どんなに金を積まれたって“ホストと客”の関係は壊さない」

ほら、と指さす方向を辿ればセバスチャンさんに寄り添う派手な美女が目に入った。

何かプレゼントのような物を渡して、彼以外は目に入らないという感じ。

「彼女、かなり金持ちなんですけど、もう何度も振られてるんです」

物腰柔らかに笑顔を絶やさないセバスチャンさん。

何度か来ているうちに分かったけど、彼が他のお客さんと接している時の態度は時々冷たいものを感じる事があった。

決して崩す事のない笑顔が、逆に感情を読めないからかもしれない。

「なのに、ユイさんには何か態度が違うっつーか……、男のカンってやつですよ」

そう言って笑った彼に、私も曖昧に微笑み返した。

「あ、ごめんなさい。私ちょっと御手洗いに…」

席を立って化粧室へ。
彼が来る前に身だしなみを確認したい、…だなんて馬鹿げてるかな。
私はただの客なのに。

みんな、一時の夢と甘い言葉を求めに来てるだけなのだから。


「あれ、」

セバスチャンさん?

化粧室から出ると、黒いスーツに長身の後ろ姿がお店を出ていくのが見えて私は無意識に後を追った。

お店の横の狭い路地に入っていった彼を見つけ、声をかけようと名前を呼ぶ。

「セバ、ス……」

突如目に入った光景に私は言葉を飲み込んだ。

其処に居たのは、大きなゴミ箱に贈り物の袋や箱を捨てていく彼。

その中には先程の美女が贈った物も混じっていた。

「あ…、」

見てはいけなかったのかも知れない、と後ずさった私はセバスチャンさんの冷たい紅茶色の瞳と目が合ってしまった。

途端、時が止まったかのように動かなくなる身体。

私は、一歩ずつ靴音を響かせながら近付いてくる彼を黙って見上げた。

「ユイ様…まさか貴女に見られてしまうとは」

困ったような表情なのに口調はどこか楽しげで。
その姿に少しの恐怖を抱けば、見透かされたように腕を引かれ路地の壁へと押し付けられた。

「やっ…セバスチャンさんっ」

目の前にある綺麗な顔が口角を上げて妖艶に微笑む。

「先程見た事は秘密にして頂けますか?」

「あ、あの、でもなんで……んっ!?」

ひんやりとした唇に突然口を塞がれる。

そのままスルリと彼の舌が入ってきて、ゆっくりと歯列をなぞられながら舌を絡められた。


「っは、あ……」

激しいキスから解放された頃には私の息はあがっていて、思考も視界も鈍ってしまった。

目の前にあるのは、私のリップがついて艶やかに光る彼の唇。
そして、そこから紡ぎ出されたのはひどく甘い言葉だった。

「私が欲しいのは貴女だけですよ、ユイ…」



甘いキスと

甘い言葉で

酔わされて――


(もう此処へは来ないで下さいね)(え、それじゃ…)(今度からは2人っきりでお会いしましょう)(……っ!?)

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