パラレル執事 | ナノ
一夜の彼氏 1/1

「一回くらいは一緒に行かない?」

「だから無理だって…私お酒も飲めないし」

「大丈夫!それにどうしてもユイに見てもらいたい人がいるの」

今まで何度も断ってきたけれど、今回だけは断れそうになかった。

私は渋々、友人に連れられホストクラブへとやって来た。


「いらっしゃいませ、お嬢様。ホストクラブPHANTOMへようこそ!」

ドアを開けると、ずらりと並んで頭を下げる黒スーツの男性達。

うわぁ…こんなとこ苦手なのに。

常連のエリコは親しげに彼らと話しながら席に案内される。

「ねぇ、私やっぱり…」

「いらっしゃいませ。お嬢様」

私の声を耳に心地よいテノールが遮った。

「セバスチャン、久しぶりー!」

頭を下げる長身の男性に、エリコが笑顔で言った。

「エリコ様、お久しぶりです。今日はお友達も御一緒ですか?」

絵に描いたような、綺麗な微笑を浮かべた彼と目が合い、私は不覚にもどきっとする。

「そうなの。あ、ユイ。この人はここのナンバーワンホストのセバスチャン。あんたに会わせたいって言ってた人よ」

「初めまして…」

ぎこちない笑みを返すと、彼はすっと跪き私の手を取り甲に口付けた。

「セバスチャン ミカエリスと申します。ユイ様、今宵貴女に夢のようなひと時を」

慣れないことをされ、途端に体が熱くなる。
顔を真っ赤にする私の隣でエリコが笑った。

「この子そういうの慣れてないから。あ、今日はボトル好きなだけ開けちゃって!」

「畏まりました。ありがとうございます」

「ちょっと…っ、エリコ…っ」

「大丈夫!ユイのも私のおごりねー」


周りの空気に流されてだろうか。
苦手なお酒を何杯も飲んだ気がする。

隣に座った名前も知らない男の人と何か話してたけど、その記憶も曖昧で。

ぼうっとする意識の中、甘いテノールが私に囁きかけていた――



頬にくすぐったい感覚。

「ん…っ」

目を開けると、小さな黒猫が琥珀色の瞳をこちらに向けていた。

にゃぁー

「え…っ」

ここどこ!?
慌てて身体を起こすと目眩がした。

「頭痛い…」

そういえば昨日飲み過ぎたんだ…


「おや、お目覚めでしたか」

入ってきた人物は私を見て穏やかに微笑む。

「あ、セバスチャンさん…?」

昨日エリコに連れられて行ったホストクラブの。

「……っ!!」

途端にある考えが頭に浮かんだ。
どうしよう昨日酔ってたから、もしかしてこの人と…
困惑しながら彼を見上げると、セバスチャンさんは苦笑しながら傍へやってきた。

「ご安心を。昨日は何もありません」

「じゃあ…」

「昨日、酔って寝てしまわれたお2人はお目覚めになりませんでしたから。家までお送りしようとしたのですが、名刺を頂いていたエリコ様はともかく、貴女のお家が分からなかったもので」

放り出す訳にもいきませんしね、と彼は再び苦笑する。

「じゃあここって」

「はい。私の家です」

やっと状況が把握できた。

彼の言うことが確かなら、私は夜中ベッドを占領してたことになる。

「あの…ごめんなさい、迷惑かけてしまって…」

「迷惑だなんてとんでもない」

ベッドの横に膝をつくと、セバスチャンさんは包み込むように私の手をとった。

「それよりも。慣れないものは無理に口にしてはいけませんよ。お酒の飲み過ぎは体に悪い」


目を丸くして彼を見つめ返した。
この人ホストだよね…?

「酒は飲んでものまれるな、が私の美学ですから」

悪戯っぽい笑みの中に皮肉がまじる。

「すみません…」

私が謝ると彼はクスリと笑った。

「今度、正しいお酒の飲み方をお教えしましょう」

彼が手をついたベッドがぎしっ、と音を立てる。

ですから……またいらして下さいね?

耳元で囁かれ、私はまた目眩を感じた。



二日酔いから始まる恋?

お酒より強い

彼の誘惑――


(エリコ…)(え?ホストクラブに行きたい?どうしたの、あれだけ嫌がってたのに)


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