パラレル執事 | ナノ
朧月夜の夢と執事 1/1

ふと目が覚めたのは真夜中の事だった。

長い時間夢を見ていた気もするが、その内容は思い出せない。

ただ妙に頭と目は冴えていて、ユイはベッドから体を起こした。

するとタイミング良く寝室のドアがノックされる。

「お嬢様、私です。宜しいですか?」

「…セバスチャン」


ドアの向こうから姿を見せたのは、燭台を片手に淡い炎に照らされた燕尾服の執事だった。

闇に溶け込んだ漆黒の燕尾服と、闇の中でも浮かび上がる白皙の顔がユイの傍らまでやって来る。

「どうしたの?」

「お嬢様が起きていらっしゃる気が致しましたので」

優美に微笑んだセバスチャンは、ユイの額に張り付いたままの前髪をそっと指で梳いた。

ユイは慣れている筈の白い手袋の感覚がどこか懐かしく思えた。

夢の余韻を引きずっているせいだろうかと思いながら、執事の細長い指先をユイは目を瞑って無意識に掴む。

セバスチャンの紅茶色の瞳が僅かに見開かれた。


「ねえセバスチャン、」

閉じていた目を開け、掴んでいた手を離して執事を見上げる。

此方を見つめる紅茶色の瞳は、どこまでも深い。


「美味しい紅茶を淹れて。朝までゆっくり眠れるように」


愛らしい主人の要望に、この執事が答える台詞はひとつだった。


「イエス マイレディ」



朧月夜に見る夢は、

漆黒色の燕尾服に

紅い瞳と妖しい微笑


(私はあくまで貴女の執事)

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