ブライダル アドバイザー 1/1
はぁ…、
と溜息をついて、目の前で微笑む社員を見た。
「まただ、セバスチャン。お前の担当した客の結婚が中止になった」
「申し訳ございません」
まったく反省の色を浮かべずに、セバスチャンと呼ばれた彼は頭を下げた。
「しかし、私には不可抗力です」
向こうが御勝手に好意を抱かれるのですから、とその口元に弧を描く。
「ですが御安心を。今回も丁重にお断りしましたから」
「…楽しんでるだろ」
「何をです?」
「…もう良い。下がれ」
彼が出て行ってから、ホテル・ファントムハイヴ社長、シエル・ファントムハイヴは再び溜息をついた。
他の社員達から
“花嫁キラー”
と密かに呼ばれているセバスチャン・ミカエリス。
セバスチャンの担当した花嫁のほとんどが彼に惚れてしまい、結婚がキャンセルになるという事が多々あった。
それでも、他の社員に比べ遙かに知識豊富で有能な彼を辞めさせるわけにもいかず、結局いつものように仕事を任せざるを得ないのだ。
「よくお似合いですよ」
「ありがとうございます」
ウェディングドレスを着た女性は、にこやかに微笑んだ。
「今日は、ご主人様と御一緒ではないのですか?」
「あ、はい。今日は仕事で」
「左様でございますか」
「これにしようかな…」
鏡の前で悩む彼女に、セバスチャンは別のドレスを一着持ってきた。
「こちらは如何ですか?」
「え?でも、ちょっと大人っぽすぎるような…」
戸惑う彼女の前にドレスを持っていき、鏡の前で合わせた。
「本当によくお似合いですよ」
セバスチャンは形の良い唇を彼女の耳元に近づけて、そっと囁いた。
「このまま、さらってしまいたくなるほどにね」
かあ…っと、鏡に映った花嫁の頬が染まる。
隣では、彼が満足げに微笑んでいた。
そのドレスは―
私の隣で着て欲しい。
(…社長)(どうしたセバスチャン)(本気で堕としたい方ができました)