宅配ピザのお兄さん 1/1
「ファントム・ピザです。お届けに参りました」
インターホンの音と共に扉の向こうから耳に心地良い声が聞こえ、私は急いで玄関へ向かった。
扉を開けると、宅配の格好をした彼が、にこやかな笑顔を浮かべてピザを差し出す。
「底がお熱くなっております。お気をつけ下さい」
さらさらの黒髪に、綺麗な紅い瞳。
私なんかより、ずっと白い肌。
ピザの配達をさせるにはもったいないほど整った容姿の彼に会うためだけに、私は週に2回もピザを頼んでいる。
お金を払ってピザを受け取る。
お釣りを貰うとき微かに手が触れるだけでも緊張してしまう。
「それでは、ありがとうございました」
優雅に頭を下げ、とびっきりの笑顔を残して帰っていく。
「行っちゃった…」
いつものように、後ろ姿を見送ってから家に入った。
「また名前、訊きそびれた…」
なかなか一歩を踏み出せない私と彼の関係は、ただの宅配員と客。
次こそは!
と意気込んでも、いざ彼を目の前にすると結局なにも言えない。
こんなんじゃだめだよね…
「フィニ、それはどちらの配達ですか?」
「最近よく注文してくれる、ピザ好きの女の人のだよっ!」
「そうですか。かして下さい」
「え?でもこれは僕が…」
フィニが言い終わらないうちに、セバスチャンはさっと彼の手から取り上げる。
「私が行きます。貴方は休んでいて結構ですよ」
「え、でも…」
セバスチャンは、あっと言う間に店から出て行った。
「フィニ?配達は終わったのか」
「あ、店長!」
フィニから訳を聞いたシエルは、呆れたように溜息をついた。
「まったく…」
「あれ?」
「ん、どうした」
フィニが首を傾げて外を指さす。
「バイクが置きっぱなしだ。セバスチャンさん、どうやって配達行ったんだろ?」
「なんだって?!まったくアイツは…」
早く貴女に会いたくて。
ピザと2人の気持ち。
熱いのはどっち?
(あれ?なんか挟まってる…)(電話番号?)