*静臨
*エスパー静雄と慌てふためく臨也くん。










“シズちゃんのこと、本当は好きなのに”


そんな声が、俺の頭の中で響き渡った。





   『塞いだ耳で聞いたのは』





池袋をブラブラしてたら、ノミ虫野郎のむかつく姿が見えた。それにめがけ、近くにあった赤ポストを思い切り投げる。

もちろんと言うようにヒョイとそれを交わした臨也は、そのまま素早く路地裏にかけだした。


そこまでは、いつも通りだったのだ。

そう、ここまでは……。


「待て臨也!!!」

「待てって言われて待つような奴はいないよシズちゃん。まったく、そんな事も分からないわけぇ?」

「うっせぇ!待つのが嫌なら殴らせろ!!!」

「殴らせろって言われて、素直に殴られるような奴もいないって」


ケタケタと笑いながら、そのまま細い路地を走っていく。俺はらちがあかないと思い、無理やりなパルクールで臨也を追い詰める。

そして……


「捕まえたあ!!!!」


パシッと、臨也の細い骨ばった腕を掴んだ。


「うわ、最悪……」

「はっ、ざまあみやがれノミ虫が。今日こそてめぇを殺してや―――」


『シズちゃんのバカ』


………ん?


「あ?」

「? どうしたのシズちゃん、そんな間抜けな顔して。もともと頭が抜けてる顔してんだから、そんな顔したら余計バカに見えるからやめなよ」


いつもの皮肉。その皮肉の後に、『はやく俺の気持ちに気づけよ』という臨也の声。だけどその声が聞こえている時、臨也の口は閉じていて……


どういう、ことだ?


「臨也てめぇ、何かしこんだか?」

「は? しこんだって……どこにそんな隙があったのさ」

『あぁ、そうやっていつも俺を疑うんだから。本当、そういうところは大嫌い』

『ああもう嫌い嫌い嫌い。何なんだよ、手離せよ。お願いだから離してよマジで』

『シズちゃんなんて嫌いだよ』


―――なんだよ、これ。


バッと、臨也の腕をつかんでいた手を離す。そんな俺を不審に思ったらしく、警戒心むき出しで俺を見つめる臨也。


「……頭、いてぇ」


ガンガンする。なんだよ、今の。臨也の野郎の声が、直接頭ん中に響いてきて……。

頭を押さえたままその場にうずくまると、まるで珍獣でも見つけたかのような顔の臨也が、楽しそうに俺に近づいてきた。


「なになにシズちゃん、うずくまったりしちゃってどうしたの?あ、明日は隕石でも降るのかな??」


チョイチョイと、俺の髪を指で摘んでさも楽しそうに引っ張る。瞬間、


『どうしちゃったんだろうシズちゃん。まさか、俺を油断させる手段?て、単細胞なシズちゃんにそんな高度なことできるわけないか』
『じゃあなに、本当に頭痛いとか?もしかして風邪?化け物も病気するわけ??』


臨也が俺に振れてきた瞬間、また流れ込む言葉たち。たぶん、俺が臨也に触れたら聞こえてくるんだろう。

つかこれ……臨也の、心の声?


「……っ、るな」

「ん?」

「俺に……、触るな!!!」


パシリと俺の髪を触っていた臨也の手を振り払う。と、やっぱりあの声は聞こえなくなった。


「………触るなってなにそれ。俺に触らないと、俺のこと殺せないよ?」

「うぜぇ、喋んな黙れ。とにかく今日は見逃してやっから、どっか行け」

「………」


「なにそれ」と臨也は呟いた瞬間に俺の両頬を手で覆い、そのまま無理やり俺はグイッと上を向かされ、臨也と向かい合わされる。


「な…っ!?」

「やるなって言われると、余計にやりたくなっちゃうんだよね」

『いきなり触るなってなんだよ、意味わかんない。シズちゃんはいつも意味わかんない』


うるさい。やめろと思いながら、必死に自分の耳を塞ぐ。


「……やめ、ろ」

『だから嫌いだ。シズちゃんなんて大嫌いなんだ。嫌い、なんだよ。……こんなことしか言えない、自分が』

「やめないよ。だってシズちゃんのこと」

『シズちゃんのこと、本当は』




「嫌いだもん」

『好きなのに』




「………は?」

「ん? シズちゃん??」


耳を塞いでいた手を、思わず緩めた。だって、もし、もし俺の頭ん中に響いてるこの声が臨也の声だとしたら、今……


「………なぁ」

「なに??」

「俺が今、お前の心の中読めるっつったらどうする?」

「はぁ? なにシズちゃん、とうとう土地狂っちゃった??」

『は?は?は?心が読めるってどゆこと??単細胞バカがただの変なイタい人になっちゃった???』

「イタい人じゃねえし。つか、単細胞バカってなんだよくそが」

「っ!!!??」


ああ、やっぱり頭に響いてきた声は臨也の心の声だったらしい。その証拠に、臨也は俺の言葉に目を見開いて驚いた様子を見せている。


「おい、臨也」

「な、なにさ?」

「お前、俺のこと本当は……」

「ぎゃああああ!な、ななな、なに言ってんのシズちゃん!?べ、別に俺はシズちゃんなんて……!」


パッと、臨也は俺の頬に触れていた手を離す。これで臨也の心の声は聞こえない。でも、それでいい。


「言えよ」

「な、なにを……」

「お前の気持ちだよ。触れた時しかお前の心ん中聞こえねえんだよ。今はお前に触れてねえから、なにも聞こえない。だから」


「お前の口から言えよ」と俺が優しく笑うと、ボシュンと音が鳴りそうなぐらい臨也の顔は真っ赤になった。


「俺、は……」

「うん」

「シズちゃん、なんて……っ」



塞いだ耳で聞いたのは、

素直になれないお前の気持ち。


その気持ちを、

今度は口に出して言ってほしいから。




「……―きだよ、バカ」




***
慌てふためく臨也くん。
たまりません。

素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございました!

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