放課後、気付いたら教室には俺一人。どうやら俺が寝てる間にクラスの連中は帰っちまったらしい。

教室には西日が綺麗に差し込んでいた。

このまま残っててもやることねぇし、俺もさっさと帰ろう。そう思い、ダラダラと荷物をまとめていた時だ。

突然教室の後ろのドアがガラッと開き、一人の女子が入ってきた。

そいつは開けたドアを静かに閉め、何故か深呼吸を一つすると、迷いもせずツカツカと俺の目の前まで歩いてやって来た。


「シカマル君」


その女は少し俯いたまま俺の名を呼ぶと、サッと後ろ手に持っていたのであろう小さな箱を俺の前に差し出してきた。


「…な、何だ」


俺は女の雰囲気に少し圧倒されながらもとりあえず返事をかえす。


「これ、受けとって」

「は?」


突然俺の前に差し出された小綺麗な箱。ちなみに言うと今日はなんの変哲もないただの平日だ。

俺が何かプレゼント的なものを貰う理由は何一つとしてない。


「お願い…!!」

「あー…これは…」

「バレンタインのチョコ」

「ば、バレンタインって…」

これは何、と聞こうとした俺を遮り、女は少し震えた声でそう言った。

つーかバレンタインデーって…明日、だよな…?


「今日13日だぜ?」

「うん。いいの」


そこでやっとそいつは顔をあげた。よく見ればその女は同じクラスのなまえだった。

あまり喋ったことはねェけど。


「少し変わったことがしたかったの」

「?」

「だってシカマル君、明日になったらたくさんチョコ貰うでしょう?去年もそうだったし」

「あー…」

「だから、普通に渡したんじゃきっと覚えててもらえないだろうって思って」


そう言うなまえは少し困ったように笑っていた。


「どんな形でも良いから、少しでも長くシカマル君の記憶の中に居たかったの」



そして無理矢理その小さな箱を俺の手に握らせると、


「あの、返事とかいいから。私、これ渡せただけで嬉しいし」


じゃあ、また明日ねと一言付け足し、入ってきた時とは逆にドアを少し乱暴に開け放ち足早に出ていってしまった。




「……」


俺はしばらくの間呆然と立ち尽くしていた。

何だったんだ今のは。突然ヅカヅカと教室に入ってきたと思ったら、自分の言いたいことだけ言って風のように去っていった。

でも、確かにあんなことする奴は今まで会った女子の中にはいなかったし、多分これから先も現れないだろう。


「なまえ、か」


貰ったチョコをもう一度見る。

と、自分でも口元が緩むのが分かった。こんな気持ちは初めてだ。




フライング
(とりあえず、明日は朝一であいさつしてやろう)



――――――

バレンタインから恋が始まっても良いよね?

ということで、バレンタインに便乗して書いてみました。

書いてる途中に「そういえば、今年のバレンタインって日曜じゃん」と気付いたのですが…(汗)

まぁ、ドンマイですね(笑)




では、ここまで読んでくださってありがとうございました♪








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