※無駄に長いです
※その上とってもくだらないです






「ありがとうございました!!」


そういって深々と客に頭を下げ、ニッコリと満面の笑みを浮かべている彼女。誰とでも分け隔てなく優しく接し、また朗らかで女性らしい声は俺の耳に心地よく残る。

そして、店にある沢山の花を見ているときのあの何とも言えない幸福そうな表情はこちらまで幸せな気分にさせてくれるのだ。

そんな彼女の事を、彼女が働いている花屋の斜め向かい側にある甘味屋の一番端の席に座って眺めるのが俺の日課となりつつあった。


彼女と初めて出会ったのは数ヶ月ほど前。

エリザベスが大江戸病院に入院していたとき、病室に何か手土産でも持っていかねばとたまたまこの花屋に立ち寄ったのが始まりだった。

その時、俺がエリザベスの話をすると、彼女は見ず知らずの俺のペットのために手際よく一つの小さな花束を作ってくれたのだ。

「エリザベスちゃんが早く元気になるように心をこめてつくりました」と言っていた彼女の優しい笑顔を俺は一生忘れないだろう。

そんなこんなで、俺は彼女にすっかり惚れ込んでしまったのだった。だってエリザベスの事を気にかけてくれる人に悪い人はいないもの。


そして今日、俺はある決心を胸にこの花屋を眺めていた。それは、今日こそ彼女に話し掛けること。

俺がエリザベスに花を買っていったあの日以来、俺は彼女をずっと影から見ていることしか出来なかった。

自分の気持ちに気付き胸がキュンとなったあの日も、彼女が他の客と仲睦まじく談笑しているのを見て苛立ちを覚えたあのときも、俺はただあの甘味屋の一番端の席に座ってこちらを眺めていることしか出来なかったのだ。

しかし、俺は考えた。武士ともあろう者がそのような卑怯な真似をして良いものかと。自分も武士として生きる身ならば、正々堂々と正面から向き合うべきではないかと。

そしてついに、好いた女子をそっと見守る事しか出来なかった昨日までの軟弱な自分に別れを告げたのだ!!最早俺に怖いものは何もない!!フハハハハァァ!!


「…!!」


そんなことを思っていると、彼女が店の中へと入っていった。よし、この隙に店の前へ移動しよう。




*



「あ、いらっしゃいませ!!」


店の前をなるべく自然さを装ってうろうろしていると、案の定あちらから声をかけてきた。


「今日はどんな花をお探しですか?」

「あ、いや…その、」

「…あ!!」


と、俺の顔を見るなり彼女は驚いたような表情になった。


「あなた、あの時のお兄さんですよね?」

「あの時?」

「そうです!!エリザベスちゃんは元気になりましたか?」


これには俺も驚いてしまった。まさか数ヶ月前の出来事を覚えていようとは。しかも俺は彼女にとってはただの客の一人にすぎないだろうに。

ん?こ、これはもしや…世に言う“脈あり”と呼ばれる現象なのではないか…?


「何だとォォォ!!!?」

「え!?あ、あの、」

「あ、いや、すまない。こっちの話だ」


喜びが勇みすぎて思わず叫んでしまった。桂小太郎一生の不覚…!!しかしこれが喜ばずにはいられない。彼女は俺だけでなくエリザベスのことも覚えていてくれた。エリザベスのことを気にかけてくれる人に悪い人はいない、俺はそう確信しているのだ。


「おかげでうちのエリザベスはすっかり元気になった」

「本当ですか?良かった…」

「エリザベスに代わり礼を言う」

「いえ!そんなたいしたことはしていませんので」


彼女はホッとしたように微笑んでみせた。


「じ、じゃあ俺はそろそろ…」

「え?もうお帰りになるんですか?」

「あ、あー、エリザベスが待っているのでな」

「そうですか…」


いや、本当はもっと彼女と話していたいのだが…。これ以上は俺の心臓が持たぬからな、色んな意味で。現に今彼女がシュンとなっている姿も可愛らしいと思ってしまう自分はもう末期だろう。それに、今回の目的である彼女と会話をするというミッションはもう果たせているはず。

しかし、初めてにしては頑張ったではないか俺!!また日を改めて来よう。今度はエリザベスも連れて。


「では、これで失礼」

「あ、あの!!」

「…何だ?」

「お名前を…伺っても良いですか?」

「え」


何…!!な、な、名前だと…?もう帰ろうとしていた俺を引き止めてわざわざ名前を…?本来ならばそれは俺が言うべきセリフ。つまり相手に気があるものが相手のことを知るためにさりげなく使用できるセリフの一つ。

こ、これはつまり…脈、ありではないのか…?


「何だとォォォ!!!」

「え!?あの、」

「あぁ、すまん」


しまった。喜び勇みすぎて再び取り乱してしまった…!!桂小太郎人生二度目の失態…!!

気を取り直し、呼吸を整える。こんなチャンス、逃すわけにはいかないからな。彼女の目をしっかりと見つめ、落ち着いてゆっくりと声を発した。


「お、俺は――」


しかし、神様が俺に与えてくれたチャンスとやらは、自分自身のある意味良すぎる反射神経によって一瞬で見事に砕け散ってしまったのだった。

街の喧騒に交じり、どこからか男の怒鳴り声が聞こえてきたことが運の尽きだった。


『おいそこのヅラ親父ィィ!!待ちやがれェェ!!』




「!!ヅラじゃない、かちゅらだ!!……はっ!!」



「…え?」

「……」

「……」

「……」

「…か、つら…さん?」

「いや、ヅラです」




やっちゃった

―――――

たったこれだけのオチを使うために物凄く長い文になってしまいました(汗)
しかもこんだけ書いといてこのオチ…
でも、相変わらずお馬鹿な桂さんが書けて楽しかったことは間違いない^^←

最後まで読んでいただきありがとうございました!!









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