放課後、委員会やら何やらですっかり帰りが遅くなってしまった私は、一人下駄箱で足止めを喰らっていた。
「はぁ…」
ゆっくりと空を見上げてため息をつく。鉛色の低く垂れ込んだ空からはしきりに雨粒が降っていた。
つい先ほどまではぽつりぽつりと可愛いものだったと思ったら、いつの間にそれはザーザーと容赦のないものに変わっている。
はぁ…。さっきまでの雨なら走って帰ればなんとかなりそうだったけど、この雨は傘の無い今の私にはキツイかもしれない。
そう、今日は運の悪い事に傘を家に置いてきてしまったのだ。だって天気予報で「降水確率は30%でーす」なんて言ってたら、「あ、今日は大丈夫かな」って思うでしょ?ね、誰だって思うよね?
もし万が一これを読んでるみょうじさんがそう思わなくても、私はそう思ったんだもん!仕方がない!
…まぁ、それは置いといて。
私がくだらないことを考えている間にも、雨はザーザーと降り続けている。全く以って止む気配はなさそうだ。
「はぁ…」
私は本日二度目のため息をついた。
その時、
「どうした?ため息なんかついて」
「か、桂くん!」
後ろから同じクラスの桂くんに話かけられた。
こんな天気で湿度が高く蒸し暑いというのに、相変わらず制服はキッチリ着こなしている。
そしてこんな湿度だというのに、あの艶やかな長髪は少しも乱れていないようだ。ちょっとだけ嫉妬。
そんな桂くんは、鞄を肩にかけ直しながら私の隣にやってきた。
「一人か?」
「あ、うん。さっき委員会が終わったところなの」
「そうか」
「桂くんも今帰り?」
「ああ。世界の肉球について考えていたら、いつの間にかこんな時間になっていてな」
すっかり遅くなってしまった、などとぶつぶつ言いながら靴を履き、私の隣にやってきた。
やっぱり桂くんは不思議だ。私にはよく分からないし、理解できない面がまだまだたくさんあるみたい。
つーか何だ世界の肉球って。何でそんなもんのためにこんな時間まで学校に残ってんの?終業のチャイムが鳴ってから結構経つけど。
「じゃあ、俺はこれで失礼する。エリザベスが家で待っているだろうからな」
そう言って桂くんは紺色の傘を持って颯爽と帰ってい…ん?傘…
「か、桂くん待って!!」
「何だ?」
桂くんの傘を見て、ふとひらめいた。そうだ、この際だから私も一緒に傘に入れてもらっちゃえばいいじゃん。
私が後ろから呼び止めると、桂くんはゆっくりとこちらを振り向いてくれた。
「あのさ、私も帰りたいんだけど」
「?勝手に帰れば良いだろう」
「いや、そうなんだけどね、その…傘が無くて」
だから、一緒に入れてくれる?そう言いながら私は桂くんの紺色の傘を指差す。
「え、」
「ね?ちょっとだけだから!!」
お願いします!と手を合わせてさらに迫ると、一瞬の間を置いた後、桂くんは途端に面白いくらい顔を真っ赤にして後ずさりをした。
「そ、そそそそんな事出来るわけがないだろう!」
「何で?」
「何でと言われてもな…」
「桂くんの傘大きいから大丈夫だって」
「いや、そういう問題ではなくて」
「じゃあ何?」
私が再び問うと、桂くんは途端に静かになった。と思ったら、今度はあーとかうーとか一人で唸りはじめた。全く忙しい人だ。
雨はまだ止みそうにない。
「入れてくれないなら私歩いて帰るけど」
「ま、待て!女子が風邪でも引いたらどうする」
「じゃあ私どうしたらいいのよ」
私は半ば嘆くように言った。自分でも明らかに人にものを頼む態度ではないって分かってるけど。
ていうか、女である私を気遣ってくれる優しさがあるなら傘にだって入れてくれてもいいよね?もし私の目の前にいるのが土方君だったら何のためらいもなくサッと傘に入れてくれたに違いない。
「ねぇ、何でそこまで嫌がるの?」
「そ、それはだな…」
今度は少し聞き方を変えて理由を聞いてみた。しかし桂くんは明後日の方を向いたまま私と視線を合わせてくれない。
「そんなに嫌かな…?」
もうここまでくると何だかさすがの私もちょっと落ち込むなぁ…。
なんて思いながら、少し俯いたまま最後の質問をした。これで嫌と言われたらもう金輪際桂くんの傘に執着するのはやめよう。
「嫌というか、その…」
しかし、そんなことを考えていた私に桂くんは消え入りそうな声でこう言ったのだった。
「相合い傘などしたら、おおお俺達まるで恋仲みたいではないか…!!」
しどろもどろ
(そして、2人は顔を真っ赤にして一つの傘で仲良く帰ったのでした)
―――――
桂さんの短編をちゃんと書いたのはこれが初めてだったりします。
うーん、色々いじった割には不完全燃焼な気も…^^;
でも、楽しかったからいいと思いました。あれ、作文?