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木の葉の里に来てから1週間と少し。何だかんだでこちらの生活にも馴染んできたように思える。
ちなみに、数日前からは本格的にパシ…雑用係の仕事が始まった。
そして、今私の目の前にはドーンと高く積まれた本、本、本。巻物もおまけで追加されている。
そう、現在進行形で綱手様の雑用係としての任務中なのだ。
事は数十分前…。
火影室のドアをガチャっと開ける。
「綱手さまー、何か御用ですか?」
「お前…!!ノックする前に入ってくるんじゃない!!」
「あ、すいません。で、何か用ですか?」
「はぁ…。実はな、これをどうにかしてもらいたい」
そう言いながら、私が立っているすぐ脇を指差す。
綱手様の言う‘これ’とは、バラバラに床に置かれた(ぶん投げられた)分厚い本だった。
しかも何冊あるか検討もつかない。
「…これを、どうしろと?」
「これを全部書庫に戻してきてくれ」
「え、この山全部ですか!?」
「出来ればあいうえお順で」
「あ、あいうえお順!?余計にめんどくさっ!!」
「…何か言ったか?」
「いいえ、滅相もございません。すぐに片付けて参ります」
つい私の口からポロリと出た本音に、綱手様はギロリとこちらを凄い眼力で睨んできた。
ので、私はニッコニコの笑顔を綱手様に向けながら、本を数冊手にして部屋を出た。
まぁ、こういうわけで、今私はやっとバラバラになっていた本を全部書庫に運んだところ。
これからこの本を一冊ずつ確認しながらあいうえお順に本棚に戻さなくちゃいけない。
もう。何なんだよ。何であいうえお順なんだよ。どうせまたすぐにバラバラになっちゃうんだから意味ないでしょうが。
それともあれかな?綱手様は何でもかんでも順番通りに並べないと落ち着かない感じの方なのかな?
ほら、よくいるじゃん。店の商品を意味もなく綺麗に並べたがる人。店員じゃなくてお客なのに。
いや、でもまずそうだったとしたら自分でやるでしょ、こんな事。
「はぁ…」
…くだらない。何だ自分、いつからこんなくだらない事無駄に考えるようになったんだろ。
さっさと片付けてさっさと家に帰ろうか。
黙々と片づけを始めてから30分くらいたった頃。
本はまだまだ沢山あるし、本棚のスペースもまだまだ沢山余っている。
…何か、泣きたくなってきたな。大丈夫かな?今日中に帰れるかな?
そんな事を思ってまた一つため息をつくと、
「ん?」
自分の足元に、一冊だけ他の本とは種類が違うような本が落ちていた。
手にとって見てみる。題名は…
「…イチャイチャパラダイス?」
何だそれは。ここの書庫にはこんな本まで置いてあるのか。
しかもかなり目立つよこれ。他の本は表紙の色からして地味だし、中のページにはシミもあって相当年期が入っている。
でもこの本は他に比べて保存状態が良いよ。新入りか…?
「どんな本かな…」
ちょっと読んでみようかな。多分題名からして難しい本ではなさそうだ。
私は本棚に寄りかかって体育座りをした。そして表紙をめくり、適当な文に目を通す。
「えーっと…‘私は一人、窓の外を見ながらあの日の夜を思い出し’…あれ?」
「はい没収ー」
見上げると、さっきまで誰も居なかったはずなのに、私の前には私が読んでいたイチャイチャパラダイスを持った男の人が立っていた。
あれ?私が読んでた本…。いつの間に?
「なーに人の本勝手に読んでるのかなー?」
「あわわ、すいません!!」
私は慌てて立ち上がって頭を下げた。
えーっと、誰だっけこの人。前にシカマルに教えてもらったんだけど…。銀髪にマスク…うーん。
「あ!カカシ先生!!」
「んー?」
そうだ、カカシ先生だ。私がその場でつい笑ってしまった名前。
思えばこの世界は少し、いや、かなり変わった名前が多いと思う。はたけカカシ、奈良シカマル、うずまきナルト…。
どれも私の世界では考えられない名前ばっかり。
「その本、カカシ先生の本だったんですね」
「そ。俺の愛読書だから」
「ちなみに、どんな話なんですか?」
「いや、どんな内容って…」
「愛読書って事は、大好きな話なんですよね?私にも聞かせてくださいよー」
「そ、それは…」
カカシ先生は途端に目を泳がせ始めた。心なしか汗もかいているようだ。
ん?人に言いたくないような本なのかな…?
「琴音にはまだ早いと思うんだけど…」
「えー、何でですかー」
「それより、この本の山、どうするの?」
「あ、そうだった」
何だか上手い具合に誤魔化された気がしなくもないけど、私にはまだまだ仕事が残っている事を忘れていた。
「これ、全部本棚に戻さなくちゃいけないんです。しかもあいうえお順に」
「何であいうえお順?」
「そんなの綱手様に聞いてくださいよ。私だってめんどくさいんですから」
「なるほどねー…ま、頑張ってよ」
「あれ?ここは一緒に手伝ってくれるパターンじゃないんですか?」
「俺も一応上忍だからね、暇じゃないのよ」
‘それにこの本取りに来ただけだしね’と付け足して、カカシ先生は胸の前で印を結んだ。
「じゃ、俺はこれでドロン」
「あ!ちょっ…!!」
ほんの一瞬の間の後、カカシ先生は見事にドロンしていた。
その場にうっすらと白い煙だけを残して。
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