カナリア | ナノ

 レンが指定したカフェは学校から少し離れた位置にあるが、大通りから離れたところにあるためこのカフェの存在を知っている者は少ないため、リンとレンはそのカフェをよく待ち合わせ場所にしていた。カフェのマスターはレンを見ても追及してくることをしないので、今では一番信用することのできるカフェになっている。
 カフェの扉を開けると来客を告げるための鐘が軽い音を鳴らし、その音にマスターは扉を見たあと笑みを浮かべてリンを迎え入れた。
「こんにちは、リンちゃん」
「こんにちは、マスターさん!」
「奥の方にどうぞ」
 マスターに奥の方に行くように促され、リンは既にレンがきていることを悟ると、マスターにお礼を言ったあと、奥の方に足を進めた。奥の席は二人の定位置になっていて、マスターもその席をなるべく空けるようにしてくれている。穴場ともいえるカフェだが、偶然辿り着いた学生たちがくることがあるので、顔が見えにくい奥の席は二人にとって好都合だった――偶然辿り着いた学生たちはまたこようと話すが、ここにくるまでの道は入り組んでいるため、道を把握しなければ再び訪れることは困難だった。
 どうしてマスターがこんなところに店を構えたのかはわからないが、くる客が少なくて閉店するようなことにならないことを切に祈っている。この店がなくなってしまったら信頼できる店を失うことになるので、どこでレンと待ち合わせをすればいいのかまた悩むことになってしまう。
 席には既にレンの姿があり、机の上には湯気を立てているコーヒーが鎮座していた。リンの姿に気づいたレンは、テレビで見る笑みよりずっと綺麗な笑みを浮かべた。
「待たせた?」
「いいや、俺もちょっと前にきたばかりだから」
 リンが席に腰を下ろすとレンはメニュー表をリンに渡し、今日のマスターのお勧めを教えてくれた。それを参考にリンは飲み物とスイーツを決めるとレンが腰を上げて、リンの注文を伝えに行く。
「自分で言いに行ったのに……」
「せっかく座ったんだから、またリンに立ってほしくなかったんだよ」
 注文を伝えに行って戻ってくるとリンは不服そう告げ、それを宥めたあとレンは再び椅子に腰を下し注文したコーヒーに口をつける。レンの嗜好は大人寄りで、コーヒーはミルクなしの砂糖なしが当たり前で、いつも砂糖とミルクを欠かさないリンにとってそれはどうしても美味しく見えない。
美味しいかと訊けば返ってくる答えは決まっていて、飲んでみるかと訊かれるがそのたびに首を横に振っている。
「この店にくるのも久しぶりだね」
「最近は忙しかったからな。でも、仕事は一段落しそうだから、これからは学校に行ける時間は増えると思う」
「そうなの? でも夜にラジオやるってことになってなかった?」
「あれはカイトとがくぽを中心にしてもらった。俺はたまにおまけで出るくらい」
 バナナイスがお送りするラジオが近々始まるとのことで、ファンの間ではその日を楽しみにしている子が多いのだが、LENがあまりいないことに落胆する者は決して少なくないだろう。だが、他の二人と違いレンはまだ学生で、事務所の方にも卒業できるように話を通しているため、活動は少しだけ消極的だった。
「またLENのファンが悲しむね」
「テレビ番組には出てるから問題ないと思うけどな。代わりに卒業したら俺単体でいろいろやらされるみたいだし……」
 憂鬱そうに呟きレンはコーヒーを飲み干すと、空になったカップを机の上に置いた。何をすることになるかは現時点では予想できないが、きっといい仕事ばかりではないのは予測できる。
「芸能活動って大変だね……」
 レンの話を聞いていたら果たして自分にも同じことができるのかと不安が芽生えるが、今更止めるなんてこともできるはずがなく、リンに残されている選択肢は一つしかない。レンのようにはうまくできないと思うが、自分にできる精一杯の力でやることを心に誓っていると、マスターが注文した飲み物とスイーツを持ってきた。
 ミルクと砂糖がたっぷり入ったカフェオレと今日仕入れた新鮮な蜜柑をふんだんに使ったパフェはリンの食欲をそそり、胸中にあった不安など一気に吹き飛んだ。目を輝かせそれらを見詰めるリンをレンは優しい眼差しで見守り、精神面の疲れが癒されていくことを自覚する。レンの疲れた心を癒してくれるのはリンだけで、もっとリンと会える時間を増やしたいと常に思っていた――それがようやく叶いそうでレンの心は歓喜で満たされているのだが、最近リンは忙しいようで今度は逆の立場になりそうなのが気になる。
「リン、どこか行きたいところとかある?」
「行きたいところ?」
「お互い暇な時間があったら久しぶりに遊びに行こう」
 こうして知っている土地でデートをするのもいいが、たまには知らない土地に行ってそれを二人で感じながら楽しみたい。このあたりはどこから漏れたのかわからないが、バナナイスのファンがよく徘徊しているので純粋に楽しむことは難しく、リンとの時間を誰かに邪魔されるのはなんとしても避けたかった。
「うん!」
 レンの言葉にリンは力強く頷き、その可愛らしい反応にレンの口元は自然と緩んだ。



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