!死ネタ・知識が足りてない・あまり見ていて気持ちの良い話ではないです





 光り輝くものが好きだ。自分では手に入らないと分かっているからこそ欲しがるのだと言う事は既によく理解している。無い物ねだり、そう名前をつけた人には経緯を示したいと思った事さえある程に痛感しているくらいだ。
 例えば分不相応な宝石。貧乏では無いが裕福とも言えない家庭に生まれ育った僕がルビーやサファイアなどを手にするなど有り得ないのと同じように。まあそんな見てくれだけの輝きなどにそもそも興味などはないのだが。
 例えば存在感。生れつきあまり目立つタイプの人間では無いのでたまに憧れてしまう輝き、羨ましいと感じるそれは無い物ねだりとして一番相応しいだろう。欲しいと思うのに得てはいけない、何故なら存在感を得てしまったらきっと僕は必要とされないのだ、なんの取り柄も無い者が天才集団に紛れるなんてとんでもない。
 そう、だからこそ僕は光に憧れるしかない。

 なのに今、自分じゃあ絶対に手に入らないと思っていた輝きが手の中にある。
 キセキの世代と言えば僕ら付近の年代でバスケをやっていれば知らない者など居ないんじゃあ無かろうか。そう思うのも無理は無いだろうと考えうるレベルの天才が一度に集まった時代、キセキの世代。幻の六人目などと言われながらも僕がその天才の中の一人になる事は万に一つも無い、だというのに。
 偶然、いや必然だったのか、青峰くんと出会えたのは。キセキの一人、青峰くんに見付けて貰いそこから芋づる式にキセキの世代と出会っていき僕は運命と言うものの存在を確信した。

(この高揚感…!!)

 赤司くんとの遭遇に少女マンガよろしく、運命をおぼえたのだ。爛々と輝く赤い瞳、今では二色に増えさらに輝きを増した。更に偶然などではなく僕を見付けてくれる。紛れも無い、あの瞳こそが僕にとって最大の無い物ねだりなのだ!

 うっそりと目を細め手元の宝石を見詰めていると足元から呻き声が聞こえて来る。
「ああ、おはようございます」
 なんでもないように平然と言ってみるがやはり声が上擦る、興奮が隠し切れずみっともない声だと僕は少しだけ頬が熱くなるのを感じた。

「テツヤ…?」

 がくがくと頭から爪先まで痙攣させ、痛みを堪えるように震えた声で僕の名前を呼ぶ。それさえも僕の興奮を煽る材料にしかならず僕は結局何度もぶるりと身震いしている。

「おはようございます」

 僕はもう一度同じ台詞を繰り返すと先程よりはマシな声になった気がした。足元に転がった少年、――先程話に出て来たばかりの赤司くんは無い瞳をさ迷わせるように地面を這うように一本だけ前に出る。僕の挨拶に対する返事は無い、少しだけ残念だがこれも愛なのだと僕は知っているから何も言わない。

「め、が」

 その場で一度腰を落ち着けた赤司くんはゆっくりと手の平を顔に持っていき、そっと眼窩に添えた。
「目が、無い、ん、だ」
 恐る恐る触っていた瞼の中にはやはり何も無い事を伝える指先からの伝達しかなかったらしく、赤司くんは口に出した事で更に顔を青ざめさせた。
 奇妙な話、赤司くんが無い無いと言っている物は僕の手の平に乗っている。欲しがっていた宝石が美しかったなは表明だけで、裏側は醜く汚れ皿には血管や神経が無数に張り付いていて正直気持ち悪いものだった。だがやはり、綺麗なのだ。

「赤司くん、そんなに慌ててどうしたんですか」
「テツヤ、目が」
「目?そんなに欲しいですか?」
「欲しいも何も、ぼく、の」
「大丈夫、ここにありますよ」

 うっすらと開かれた瞼から窪み、肉、血管が暗い中に少しだけ覗いて「ああこの宝石があの中にあったのか」と思うと更に頬が熱くなった。
 口にだせば出す程赤司くんの顔は色を失う、そんなに僕にその輝きを捧げる事が出来た事を喜ばなくても僕はわかっていると言うのに。赤司くんが僕の事を好きな事は知っていたけどここまでだっは思っていなかった、ほしかった輝きはずっと手の中にあったのだと思うと少しだけ胸がほっこりする。

「ど、して…こんなっ」
「わざわざ口にして言って欲しいなんて……赤司くんも可愛らしいとこありますよね」

 僕の口からの愛の言葉をせがむ赤司くんはとても可愛い、光を失って尚眩しい彼はやはり僕とは全く違う生き物なのだ。震えた声で「違う、違う」と繰り返す赤司くんは少しでも恥ずかしさを紛らわそうとしているのが解りやすく愛らしい。
 手に収まる二つの宝石は弾力性のある触り心地で思ったよりも固いようだ。しかしこのままでは腐ると言う事実は避けられないのも解っている、名残惜しいが用意していたホルマリンの瓶にゆっくりと入れる。防腐に使われると聞いていたから簡単に手に入ると思っていたのは間違いだったらしく、この独特過ぎる臭いを発する水溶液は若干怪しげなお店でしか一般購入は出来なかった。有害物質なのだと書いてあった。人体にとっては中毒性をもった劇薬となる。毎日これと一緒に過ごせば僕は死ぬのかもしれない。
「赤司くん」
 それも悪くないのだ。愛し合う者同士が生涯を遂げる、僕には似つかわしくない程にドラマチックな人生になるだろう。

「これからはずっと一緒に居られますね」





 テツヤはその後気の迷いかなんなのか、僕の両の目を食べてしまっていた。その光景を見ることは適わなかったから嘘か本当かは解らない。何よりももう本人に尋ねる事が出来ないからだ。
 それもそうだろう、ずっとホルマリンに漬けていた物を口にして、致死量摂取していたとしてもなんら不思議では無い。彼はきっと最初からおかしかったのだ。

 もう随分外に出ていない。目は見えず、側にあるテツヤの死体からは異臭さえしてきている。自分の身体を撫でるとバスケで鍛えていた筋肉は全て落ち、骨に皮を付けただけのような気持ち悪い感触しか無い。何も口にしない生活を続けていたらそうなるのはわかっていたが、やはりあまり気持ちの良いものでは無い。

「馬鹿だな、テツヤは」

 手探りでテツヤの身体を見付けて身体を抱きしめる。そこら中にホルマリンが飛び散っているのか鼻腔をつんと刺激する臭いが酷い、くわえて嗅いだ事も無い死体の臭いが頭をくらくらとさせる。
 テツヤが死んだ時点で逃げる事も可能だった訳だが、僕はそれをしなかった。する必要が無かったからだ。そもそも僕の眼球だってそうだ。自分よりも身体的ににも精神的にも劣るテツヤに襲われたって避ける事は出来た、まさか麻酔も無かったのは予想外だったが。

「僕も、欲しかったんだよ」

 これ。開きっぱなしの瞼を指先の感覚だけで探り、そのまま爪をたてる。ぶつぶつと神経を途切れさせる音と血を掻き混ぜる音が部屋に響く、そうしてなんとか引っ張り出した球体に一瞬の迷いも見せず思い切りかぶりつく。
 ぐちゃぐちゃと耳障りな筈の音が心地好い、片方を咀嚼するうちにもう片方も引きずり出して口に含む。本当はテツヤと同じようにずっと眺めていたかったのだけれどもう眺めるだけの目が僕には無いからこれしかない。

「はは、とっても美味しいよ」

 咽を全て通過した後は簡単だった、伊達に毎日ここに居た訳じゃない。予め把握していたホルマリンの保管場所に足を運びその3分の1をテツヤに掛ける、流石に見えないので万遍なく掛けれたかは怪しい。次に3分の1を自分の身体に掛ける、頭から被ったからテツヤの時よりも全体に掛かって居そうな気がする。最後の液体はあっさりと、先程目玉が通った器官を滑り落ちて行った。

 何時か僕とお前の死体が見付かった時に、美しいと、腐ってしまわないように。





 二人の死体が見付かった後の警察の鑑定は黒子テツヤによる誘拐及び傷害、しかし犯行後に過ちに気が付き自殺。被害者の赤司征十郎は長きにわたる監禁生活から精神に支障をきたし自殺とされた。
 未成年の犯行、更に両者共に命を断ってしまって居た為に大きく取り上げられる事は無かった。
ただ調査した刑事は口を揃えてこう言うのだ。「綺麗な死体からは程遠い、臭いも酷くとてもじゃないが見ていられなかった」と。
 目を失った赤司が想像していた自分達の姿とは大きく掛け離れていた事など、もう知ることは無い。



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