スキャンダルの続き





 嫌々と散々身をよじっていた高尾は既に意識を朦朧とさせながら腰を振っていた。緑間にやり方を聞かれながら犯されるよりもずっとマシだと、宮地の手の中に収まった高尾本人の携帯を睨みながら高尾は宮地に乗っかっている。あと送信ボタンを押すだけだ、と言うところまでされてしまえば高尾に選択肢など無い。
 実際に付き合い始めたばかりの高尾が緑間と性行為に及んだ回数など片手で足りる程だし、その少ない数の中で騎乗位などしたことある筈もない。無い知識を振り絞りながら高尾は自分の臀部に手を這わせ、一人で慣らしてここまでやった。猛った性器が高尾の内部に入るまで、いや入った今でも宮地は所謂マグロのまま下から高尾を眺めている。

「あっ、はぁ、ん……ひい、うあぁ」

 切れ切れになる息を整えようとする度に自分のものとは到底思え無いような嬌声があがって高尾は自分自身が嫌になる。緑間以外で反応を示すのは高尾にとって屈辱でしかない。
 ぶるぶると体を震わせつつ両手を宮地の腹に乗せて体を上下に動かし続けていると最初はきつかった孔にも少し余裕が出て来たように思える。
 宮地も満更ではなさそうに顔を赤らめ高尾の中で宮地の性器が大きくなるのをお互いに何度も感じていた。

「高尾…っやべ、イきそ」
「ひぁっ、あ、ムリ待って…っナカ、やらぁ…!」

 言うが早いか宮地は逃げようとする高尾の腰にがっしりと両手を添えて思い切り自分の方に寄せて深く突き挿す。呂律すら回らなくなっている高尾の、必死に力を入れていた両手も崩れ去り宮地の性器から溢れるものを最奥で受け止める。高尾自身の体重で尚深く挿さる熱い竿に刺激され目の前をちかちかさせながら高尾も同時に果てた。
 重力をもって高尾の中からこぽりと溢れて来るのが気持ち悪いが、まだ抜かれていない性器が蓋になり全部が太股を伝う事は無い。びくびくと数回体を痙攣させてから高尾は抜く事も儘ならないまま力尽きたように宮地の上に覆いかぶさる。

「はっ、あ……ひでえ、なんで、こん、な」

 お互い息も整わないうち、先に口を開いたのは高尾だった。肩で呼吸しながら塞きを切ったように嗚咽を漏らしながら弱音を吐きはじめる。宮地の着ていたTシャツの色を滲ませて、高尾か泣いている事は明白だった。

 ぐすぐすと子供のように泣きじゃくり体を震わせる高尾を見て宮地には申し訳なさこそ思えど罪悪感は湧かなかった。
「なあ高尾?」
 ゆっくりと億劫そうに頭をあげる高尾の目の前に高尾の携帯を突き付ける。
「これ、なんだろうな」
 ゆるゆると理解していっているのか、泣きながら赤くしていた顔は高尾はじわりと青に変わってていく。ふるふると震える様はまるで小動物のようだと思う。
 その画面に映っていたのは紛れも無く高尾が宮地の上で腰を振る姿だった。

「も、やだぁ……なんでっ」

 いよいよ大粒の涙を惜し気もなくぼろぼろと零し始める高尾に更に見せ付けるようにその画面を近づける。その写真が添えられて居るのは疑いようもない、緑間を宛先としたメールだ。
 高尾もそれに気付いたのか「お願いだから送らないで」と青い顔をして小さく繰り返し続けている。宮地よりも一回り小さな体をいっそ見てる方が辛くなる程に震わせ、消え入りそうな声で懇願する高尾は惨めだとすら思える。

 ぞくぞくとしたものが宮地の背中を抜けて、一度おさまった筈の部分に再び熱が集中する。体内に埋められたままだった竿が質量を増した事に気付いたのか高尾は体を大きく跳ねさせ逃げるように身を起こす。

「やだ…っ、も、ゆるして…!」
「っるせえ、黙って締めてろ…っ」

 言いながら今度は宮地も体を起こしながら高尾の尻を叩く。ペチンと言う音と同時に一瞬だけ啣えこまれた急所が思い切り締め付けられ流石の宮地も声をあげた。
「っ、何叩かれて感じてんだよ」
 恥ずかしそうに唇を噛んで、それでも尚逃げようと体を捻る高尾の脇腹を掴み今度は硬い床にその背中を押し付ける。高尾の、選手の体を傷付けまいと勢いは殺したが痛かったのだろうか、苦しそうな声を一つ漏らして高尾はやはり身をよじった。

「あーもう面倒くせえ、逃げたら送信すっぞ」

 本当は端からそんな事をするつもりあるわけがなかった。元よりそんなチームの崩壊に繋がりかねない事をするつもりは無かったのだがあまりにも高尾が本気で嫌がるからつい意地悪をしたくなるのだ。
(そもそもこんな事をしている時点でプレーに影響を与えそうだが)
 怯えきった顔で大人しくなった高尾は小さく啜り泣き始める。諦めに近い声は宮地の中の独占欲を掻き立て――同時にそれだけじゃ無いことに気付かせた。
 泣き顔を見る宮地の中に生まれた感情は今までのそれだけに収まり切らないものだ。欲しい、涙だけじゃない、何もかも。

「っひ…ぃ!」

 忌ま忌ましげに一つ舌打ちして乱暴に腰を打ち付けた。一度放たれた体液の中に空気が含まれ卑猥な水音を響かせ、高尾の聴覚からも事実を突き付ける。入口が随分緩さを増してきてどうにも締め付けが緩くどうしようかと思った時によぎったのはいましがた逃げようとした高尾を捕まえた時の事だ。
 少しの間逡巡して宮地は思い切り高尾の両膝を持ち上げて自らの肩に膝裏を乗っからせた。落ちる事に恐怖を覚えたのかしっかり足を宮地の首に押し付けた高尾の、浮いて丸見えになった尻をひっぱたく。パチンと間抜けな音が鳴った瞬間甲高い声と同時に埋め込んだ宮地の性器をぎゅうっと締め付けられた。
「んん、っ」
「高尾っ……とんだドMじゃねえか」

 いっそ強すぎる刺激に精を放ってしまいそうになったがそれをぐっと堪える。高尾の性器の先端からはとろとろ先走りが溢れ今にも射精してしまいそうだと言うのに、決定的な快感が無く吐き出す事も叶わないと言った風だ。切ない程眉を寄せる高尾の脚を今度はちゃんと持ち上げて、ずるりと一度ギリギリまで引き抜いた熱の塊を容赦なく高尾に埋める。
 パンパンと肉と肉がぶつかる音がやけに生々しい、今セックスをしているのだと知らせる音が高尾には地獄でしかない。

「あっ…あ、あぁ」

 断続的に意味をなさない呻き声ともとれる声を漏らす口の端から飲み込みきれない涎がだらだらと零れてだらし無い。それと同時に艶かしいと宮地は思う、唾液はつやつやと唇を濡らしまるでキスを求めているようだ。
「んふぅ…ひぁ」
 吸い寄せられるように唇を寄せて舌を突き入れる、きゅうっと中の締まりも良くなるから恐らく高尾は、キスが好きなのだろう。舌先で上顎を擦ったり歯を舐めたりしてから唇を緩く噛み、顎を伝う唾液を掬い取る。未だに少しだけ鉄の味を滲ませた唇は血が集中しているのか真っ赤だ。

「恋人以外に犯されて感じてんのどんな気分だよ」

 途端に顔を真っ赤にして顔を逸らすのが面白いような面白くないような微妙なラインで、つい根元までぐりっと押し付けてしまう。
「い、やぁ」
 こんなになってまで、宮地を拒否しようとするのだがら緑間は愛されていると思う。それでも感じてしまっている事に違いは無い、やはり不誠実とも言えるだろう。

「どうでも良いけど、緑間とわかれちまえよ」

 ぎょっとしたように目を見開いて何を言っているかわからないと言った風の表情はとても、いい。宮地は他とは違う感性で高尾を見詰める。
 軽く掛けた言葉は宮地の本心だった。
 男なんて有り得ないと思っていた筈なのに、まさかこんなにも入れ込んでしまうとは想像もしていなかった。動きを止めて体制をそのままに、真剣そのものの眼差しで瞳に高尾を映す。

「…むり、です」

 怯えていた筈の表情にはいつの間にかしっかり意志を込められていた。
「へえ」
 宮地は口説いたのが本気だったことは認めていた、けれど断られる事くらい想像のうちだ。最初から「わかりました」なんて別れるような仲なら宮地だってこんな想い抱いていなかっただろう。二人が本気だからこそ、良いのだ。

「まあ始めから高尾の返事なんざ聞いてねえよ」

 おもむろに高尾の両腕を片手で押さえ付け、側に置いてあった携帯を手に取る宮地に高尾は肌の色をなくしていく。迷いの無い手つきで指を滑らせて文字を打ち込み始める宮地を見て高尾はかたかたと震えながら制止をかける。
「ゃ、だ…ちゃんと言う事聞いた、じゃない、っすか…!」
 言い切ると全身全霊で暴れだした高尾を大人しくさせる為に塞がった両手の代わりと言わんばかりに下半身を揺する。勿論既に体力の殆どを使い切った高尾の抵抗など抵抗とも呼べない程弱々しいものだったのだがやるなら徹底しなければならないと宮地は思っていた。そちらの方が屈服させた充足感で満たされる、と。

「俺だって最初は送る気なんか無かったぜ?でもごめんな、本気になっちまったんだわ」

 にこりと笑って宮地は送信フォルダを高尾に見せ付ける。添付されたファイルなど開くまでもなく先程の写真だと想像が出来る。タイトルは空欄のまま本文に「高尾貰うな」と短い文だけを添えた簡素なメールはもう送信済みのフォルダに、あった。宛先を緑間としたメールは今頃本人の携帯に着信しただろう。
 抵抗をやめた高尾はぽろぽろと涙を零して、この世の終わりのような顔をしながら小さく「真ちゃん」と呟いた。
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