!謎シチュ





「神様って信じてるかい?」

 それはあまりにもそいつが言うには相応しくない言葉に思えた。耳にあまり馴染まない神様と言う単語は俺自身が使う事も殆どねえんだから、こいつは尚更無縁だろう。だが俺を見る事も無く、そいつは繰り返した。
「神様って信じているかい」
 今度は明確な疑問と言うよりは呟いただけのようにも聞こえた。天才と名高いキセキの世代の中でも一際一目置かれていると言う彼が、帝光の主将が神様なんざ言ったって説得力が無いったらねえ。
 だがまあ奴らの才能を神が与えたものだって言うんなら確かに幾分か信じ安くなる。しかし自分の性分は自分が一番わかっている。神様なんてガラじゃねえし、当然答えはこうだ。

「信じてねえな」
「火神くんらしい返答だな」

 間髪入れずに返ってきた苦笑混じりのそれに「わかってたらな聞くなよ」と口から飛び出したなは言うまでもねえんだが……こいつの言う「俺らしい」とは一体なんだろう。基本的にこいつの言う事は理解出来ない事が多いと黒子に聞いた事がある。だから今回の話もきっとその部類だろう、難しい話は嫌いだ。
 だが、どうせ直ぐに終わると予測した話はとんでもない所へ飛翔した。
「僕は信じているよ、神様」
 なんと。一番それとは遠い存在に思えていたのに信じているなんて言うのかよ。俺がこの世の中に居る奴ら、知っている限りを集めたってこいつ以上に神とは無縁そうな者が思い浮かばない程だっつうのに。
「そりゃ意外だな」
「だろうな」
 ばっさりと切り捨てるかの如く俺の感想は一蹴されてしまう。からかわれているのだろうか。口では敵う気がしないので、からかわれているとしたら相当分が悪い気がする。
「質問を変えよう」
 今度はあっさりと方向転換。やはりこいつのテンポにはついていけない。
「神様が居たら何をお願いする?」
 だから、居ないと言っているだろうに。間違いなくからかわれているようだ。だが一度テンポに乗せられたら俺にはどうすることも出来ないのも何と無くで把握しているので必死に神が居たらを想像する。無い頭を使って(自分で言うのはなんだかあれだが)考えつくのはどう足掻いてもバスケに関連付くものだけだった。
「えっと……バッシュが欲しい……とか?」
 寧ろ疑問形になってしまってこれでは一体どちらが質問しているのかわからない有様だ。それでも目の前のこいつはその答えに満足いったらしく嬉しそうに目を細めた。猫みたいだ。
「うん、やはり火神くんらしい」
「お、おう」
 褒められている訳では無いのだろうが何故か嬉しくなる。こいつはこんな笑い方をする奴だったのか。知らなかった。

「じゃあもう一つ質問しても構わないかい?」

 口ぶりから察するにこれで最後のようだ。まあそれもそうだ、そもそもこいつとはたまたま駅のホームで会っただけで行き先が違えば乗る電車も違う。もうすぐ来る電車の時間を考えればこれ以上の長話は乗り損なうと言う選択肢が出てきちまうだろう。


 ここで初めてこいつは――赤司は、俺の方を向いて目を合わせた。ばちり、赤と琥珀色の二色の瞳が俺の目を捕えると俺はそのまま動けなくなる。幼い顔立ちだと最初会った(ぶっちゃけ思い出したくもねえ)あの時から思っていたが間近で見たら尚更だ。下手したら黒子よりか幼く見えるんじゃないだろうか。加えて赤司は今だ嬉しそうに笑っているためまるで無邪気な子供そのものだ。
(こいつと初めて会ったあん時の事が嘘みてえじゃねえか)
 それでも嘘では無いと言うようにもう無い筈の傷が、左の頬が微かにぴりっと痛んだ。長い睫毛は髪と同じように赤く、顔に影を作っている。見惚れるとはこう言う事なのか。そうしていたら人形のような顔の形の良い唇がゆっくりと開く。

「僕が神様だって、言ったらどうする?」





 ゴウンゴウンと重い音をたてて赤司を乗せた電車が去って行った。冗談めかした言葉にしか思えないあの質問が今も耳を擽る。
結局答える事が出来ないまま、時間だと言って行ってしまった赤司の背中と、目が忘れられない。



飽きたので
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