この手を

この温もりを

いつまでも感じていたいから絶対離さないんだ。



―左腕に幸せをのせる日よ―



「神子はその・・・私に近づきすぎだと思う」

「敦盛さん・・・」

またこの人はマイナスな事を呟くんだから。

天気が良いから一緒に出かけようと誘いお互い楽しんでいたはずなのに、夕日が沈みかけた帰り道に一言。
敦盛が歩む足を止めて呟いた。
望美が振り返ると、視線を合わせないように地面と睨めっこする敦盛の姿がうかがえた。
こういうことは今日に限った事ではない。
近くにいると「すまない」だとか「近づいてはいけない」だとか言われてしまい、これではまるで私が悪い事をしているように思えてくる。
小さく溜息をついて目を伏せた望美は、一呼吸置いて敦盛の元へと歩み寄る。
一歩近づけば一歩後ろへとさがる。

「八葉が神子から離れたら駄目ですよ」

苦笑を浮かべて言うと、またいつもの「すまない」が返ってくる。

「私のこと、嫌いになりましたか?」

「そ、そういうわけではない。神子の事はその――」

「私は敦盛さんが好きですよ」

顔がりんごの様に赤くなった。
そんな敦盛が可愛くて思わず笑ってしまう。
これだけ言っても望美を避ける足は止まらず、どうしようかと思い足元を見た。
3寸ほどの石が1つ転がっている。
しばらく考えた後、これに賭けてみることにした。
我ながら不器用な演技だと思う。

わざと石につまずいて助けてもらおうだなんて・・・

駆け足で近づこうとし、わざと足を引っ掛ける。

「神子・・・!」

敦盛の声が聞こえグラリと視界が歪んだ。
もしもの時の為に、倒れる体制を作っていたがその必要はなくなったみたいだ。
どさりと人の腕によって望美は抱きとめられた。

「神子!怪我はないだろうか」

確かにそれは敦盛の腕だった。
先程まで触れる事ができなかったこの温もり。
今は全体を伝って感じられる。しっかりと支えられて守られているという事が。

「大丈夫ですよ。それに・・・ほら」

人が通る道端だとしても構わなかった。
敦盛の背中に両腕を回しギュッと抱きしめる。

「っ!」

「こんなに近づいているのに私は穢れない。穢されるはず、ないんです」

これだけ言っても敦盛は抵抗して離れようとしていた。

「離しません。絶対、離しませんから」

好きだから。
敦盛さんが大好きだから。

「神子は身も心も温かい人だ」

いつになっても構わない。
お互いが幸せでいられる未来を作っていきましょう。
そうすれば、今みたいに触れ合える事だってできるんだ。

敦盛さんの右腕が私の背中をギュ、と抱いた。

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