師走は師も走るほど忙しい。
あっという間に月日が経ってしまうというけれど
その時を少し止めてみようか。


月の知らせは大切な・・・


小さなくしゃみをした。

「やっぱりお風呂上りは寒いなぁ」

地面は真っ白に塗り替えられ、その上をさらに小さな結晶が舞っている。
それはまるで、花弁の様で自然と目に留めてしまう。
ヒタヒタと廊下を歩く足は先のほうから冷えていった。
髪から滴が一滴、また一滴と落ち小さな水溜りを作った。

「おやおや、それでは風邪をひいてしまいますよ」
「弁慶さん」

灯りのないこっちの世界でも今日は月の光で視界がはっきりとしていた。
口元に手を持っていき笑う弁慶さんは、何故かまだ戦闘服のままだった。
もう、夜遅いというのに・・・何処かに行っていたのだろうか。

「髪、ちゃんと拭かないと」
「あ、はい」

望美は持っていた手ぬぐい、元の世界で言うタオルで頭を拭く
さらに何かが被さって視界を見えなくする。
捲ると、外套を取った弁慶さんが立っていた。そこで自分が何を羽織っているのか気づいた。

「これ・・・返します!これだと弁慶さんが風邪ひいてしま・・っ」

人差し指を口に当てて「しー」と小さく言う弁慶に望美は口をつむぐ。

「静かに。皆が起きてしまいます」

何も言い返せなくなった望美を見て弁慶はニッコリと微笑み返した。

「僕は薬師です。自分の体調管理くらいできますよ」

だから大丈夫と言うのか。しかし、雪が降っているこの季節には見ているこっちも寒くなる格好だった。

「そんなの駄目ですよ・・・」
「心配してくれるんですか?嬉しいな」
「心配・・・というよりも怒ってます」

皆と出会ってからもう約一年が経とうとしている。
それ以前では考えられなかった出来事が起きてさまざまな運命を見てきた。
それを幾度か繰り返してきたというのに弁慶の事だけは未だによくわからない。
その笑顔の裏では何を思っているのか。
妙に苛立つ望美を前に弁慶は苦笑を浮かべた。

「それは困りました。望美さんには嫌われたくないのですが」

それだけ言うと、望美の心配に気にもかけず月を見上げた。


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